二口と茂庭♀ | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



「二口!」

三年生の茂庭がスクール水着を着ながら、プールサイドの茂みにいる二口を怒鳴りつける光景は既に他の面々は見慣れた光景だった。入学当時、爽やかなイケメンだと騒がれていた二口の正体は毒舌な生意気な少年で、けど、その顔と持ち前の運動神経、頭の良さなどで人気は変わらず鰻登りだった二口の気持ちを捉えたのは、三年生でバレー部の女子主将を務める茂庭だった。観衆は如何にして茂庭が天邪鬼の二口の心を捉えたのか知らない。ただ、気付いたら「茂庭さん――!」と満面の下心を孕んだ笑みで二口が茂庭を追いかけるのは当たり前の後継となっていた。

「なんで、覗くんだよ! 授業出なさいちゃんと!」
「授業は自習なんで。あと、覗くのは茂庭さんの発育途上な胸を水着だと、じっくり観察できるからです」

大きくもなく、小さくもない胸を指さされ、茂庭は咄嗟に自分の胸を両手で覆った。顔を真っ赤にすると、緑の塗料が施されたフェンス越しに二口が面白そうに口角を似たりとあげた。

「おま、ふざけるなよ! ほら、はやく、戻りなさい!」
「茂庭さんしか見てないんで、嫉妬しないで良いんですよ。好きです、茂庭さん」
「もう、お前は! そういう問題じゃないから! な!」

先生も早く注意して下さいと茂庭が懇願の眼差しで振り向くと、四十代を超えたばかりの体育教師は腕を組みながら「うんうん、青春だなぁ」という懐かしいものを見る熱い視線をこちらに向けていた。他のクラスメイトも諦めたような、見守りモードをとっている。

イケメンだが、口が悪く、バレー以外のことに対してやる気が薄く、数々の女と寝てきたという噂がある二口が一途になり、絶賛片思い中、それこそ授業を抜け出して思い人の水着姿を覗き見するくらいに惚れているとなると、全校生徒は面白くて応援するしかない。ただでさ、工業高校でなる伊達工業高校は、女子の数が少なく浮いた噂が限られているのだ。こんな、漫画みたいに面白い事態にみんなが食いつかないわけがない。

「茂庭さん、いつ俺にもませてくれるんですか――」
「も、揉ませるわけがいだろ! 馬鹿かお前は! セクハラだぞ!」
「別にセクハラじゃないですよ。茂庭さん、嫌がってないし」
「いや、嫌だって!」
「本当に?」

フェンス越しとはいえ、斜め下から二口に覗きこまれ、茂庭が言葉を詰まらせるのは安易に予想出来ることだ。案の定、茂庭は二口を傷つけない言葉を探す旅にでて、口元が止まったしまった。

「茂庭さん」

ちょいちょい、と呼び寄せる。茂庭は眉を顰めながらも、しょうがなく二口の方へと近づく。

「なんだよ」
「しゃがんで、フェンスに顔近付けてくれたら、俺帰ってもいいよ」

口角をあげてにっこりとほほ笑む二口に不気味なものと背筋に感じながら、茂庭は、ごくりと生唾を飲み込む。このままではバレー部期待の鉄壁である二年生を覗きとかいう下らない理由で授業をまるまるサボらすことになる。意図は読めないが、フェンス越しなので、たいしたことは出来ないだろうと茂庭は軽い気持ちで顔をフェンスに近づけ、口元だけどフェンスの隙間から出した。
すると、一瞬のすきを奪ったかのように、二口の顔が近づいてきて、唇を触れさせられた。
ちゅっと、リップ音が鳴り響く。

「ひ! お、おま、お前! こ、こら二口!」
「こらって叱り方なんですね、茂庭さん、可愛すぎるでしょう!」

二口は無邪気に笑うとそのまま、後ろを振り向いて校舎の方向へと駆けていった。当然のように、周囲にその光景は目撃されており、異性とのキスなど初めてだった茂庭は拳を握りしめ、ちが、今のはだなぁと顔を真っ赤にさせて否定しようとしたが、全員は楽しく笑って、近づいてきて、各々勝手な反応をする。
「キスだったよね」
「きゃ――! てか、茂庭ぜったいに初めてでしょう」
「どうだった、柔らかかった?」
「二口くんは慣れている感じだったよね――」

茂庭は「お前ら、今見たのは忘れてくれ! た、頼むから――!」と顔を真っ赤にさせたまま、涙目を浮かべながらプールサイドに児玉する声で叫んだ。
その喧騒の中、じっくりと、二人の様子を授業そっちのけで観察していた、体育教師は一人「それにしても二口くんの方が顔、真っ赤だったわねぇ、青春だわ」と一人、駆けていく時にみた、二口の耳朶が夏の暑さのせいだけではなく、確実に恋心で熱く染まっていたことを目撃していた。