及川と岩泉 | ナノ
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 岩ちゃんはアイスを食べるのが早かった。
 小さい頃、遊び疲れて帰ってくると、岩ちゃんのお母さんが縁側で汗まみれになった俺達を迎い入れてくれた。
斜陽した太陽の生温かい光を浴びながら、汗にまみれた俺達は縁側で寝転ぶ。岩ちゃん家の廊下は、今も昔も古臭い木材の薫りが混じっている。
虫捕りの成果を見せ合うように、籠の中身をおばさんへ晒し出して、自分の方が優秀だという事をアピールした。
おばさんは、くすくす優しく笑った後に「馬鹿なことしてないで、汗を拭きなさい!」と叱り、タオルを俺達に被せてきた。汗を拭き取って、ずぶ濡れの服を着替えさせられると、夕飯までの腹ごなしとして、アイスを渡してくれた。
アイスは決まってソーダ―アイス。食べていくと、ソーダ―が剥がれて、クリームアイスが出てくるタイプの奴。ひと箱、二百円以下のお手頃な値段のアイスを俺と岩ちゃんは喜んで貪った。
融けないように舐めていく。アイスは舐めるものだというのが、俺の考えなんだけど、岩ちゃんは違うみたいで、男らしく豪快に、がぶり、がぶりとアイスを噛み砕いていく。岩ちゃんは昔からアイスに限らず食べるのが早く、良くおばさんに落ち着きがないと叱られていた。
なんで、岩ちゃんが食べるのを早いのを知っているかというと、俺は岩ちゃんが食べ物を口の中へ運んでいる動作を見つめるのが、なんとなく好きだったのだ。感覚でしか言い表しようのない言葉なのだけれど。

「及川」
「な、なに、岩ちゃん!」
「お前、アイス融けているぞ」

指さされて見てみると、腕を伝ってアイスが融けてきていた。慌てて、俺が舌を出して舐めとろうとすれば、岩ちゃんが横から手を伸ばしてきて、俺の腕に付着したアイスをべろりと、熱い舌で舐めた。

「い、岩ちゃん!」
「ショッパ、まず。キモ」

「今、キモイのは岩ちゃんだって!」

全身の毛が逆立ちしてしまう程、驚いた俺は心臓をばくばくさせながら言い返した。俺の顔が真っ赤になっている。岩ちゃんはなんてことない顔をしながら、食べきってしまった自分のアイスの棒を噛んでいた。

「一本じゃ足らねぇな」

少なすぎるのだと、食いしん坊な岩ちゃんは、早く夕ご飯にならないかと、呟いていたが、俺は岩ちゃんの言葉がきちんと頭の中にまで届いていなかった。
真っ赤な顔は持続中だ。
今が夕方で良かった。岩ちゃんに気付かれたら、熱でもあるのかと心配される所だった。
さっき「なんで」と自分で言っていた、感覚的だった部分を自覚した。
俺が岩ちゃんの食べている所をこんなに直視して、岩ちゃんの少なくなっていくアイスに僅かな焦りを抱いたり、おばさんがせっかくご褒美にくれたアイスを融かしてしまうのは「食べている岩ちゃん」は俺が初めて見つけた岩ちゃんのカッコイイ所であるからだ。
美味しそうに、豪快に口を動かしもぐもぐ食べる岩ちゃんは勇ましい。生命を惜しみなく食している乱暴だけど、旨味を感じる仕草は、アホみたいに日常へ潜んでいて、俺じゃないと気づかない、岩ちゃんの一つだったんだ。