大地と菅原♀ | ナノ
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制服を着込んだ菅原を近くで見ると、白いワイシャツが汗で透けて下着が見えた。大地は顔を赤面させながら、見なかったふりをすると耳を掴まれ引っ張られたが、見えているのは下着ではなくキャミソールだと菅原に耳打ちされた。大地からしてみれば、下着もキャミソールも同じなのだが、彼女はキャミソールを着ているから良いのだと、笑みをつくりながら軽やかに足を動かし、腕を組んだ。
ふっくらと膨らんだ胸が大地の鍛え上げられた筋肉に触れ、部活中は気にしない所まで、思わず敏感に反応してしまう。無防備だと突き放すことも出来たが、何も気にしていない顔をしながら真横で笑っている菅原を見るとなにも言えなくなった。
これが計算だとしたら女は恐ろしいと大地は胸の中で眉を顰めたが、見透かしたように菅原の大地を掴む腕がきつくなった。

炎天下の中を歩いていくとバス停に到着した。登下校の時間外は一時間に一本しかないバス停は、学校から市内まで生徒を届けてくれる役目を担っていた。錆びれたベンチに腰かけて、裾で汗をぬぐうと、菅原が立ち上がり、一台だけバス停に設置された自販機で麦茶を購入した。添えられたタオルと一緒に「はい」と渡される。大地は「ありがとう」と礼を述べながら麦茶を受け取った。真横で真夏だというのに、ハバネロドリンクと味覚を疑うものを、ごくごくと喉越しに体内へ摂取していく菅原のことを相変わらずだなと、目を細める。
数分待つとバスは到着して、乗り込む。がらんと空いているバスの後部座席へ座り込む。肩へ頭を寄せてきた菅原へなにも言わず、バスの中で二人はなにも喋らなかった。ただ、乗せられた肩の重みや、冷房がきいたバスが進むにつれ近くなっていく手の距離。指先でふれあい、重ね合うと、微睡の中へ今にも誘引されてしまいそうだった。

いつも買い出しへ行くときに下車するバス停を通り過ぎると、海辺へ道が開いた。窓をあけると隙間から磯の香りがわずかに鼻腔を過る。昼下がりの陽気な天気に磯の香りが交われば、まるで鼻歌が聞こえてきそうな空間になった。
大地が耳を凝らすと、菅原が真横で鼻歌を歌っていて、思わず吹き出すと握っていた手を離され、ばしばしと背中を叩かれた。

到着した水族館へ降り立つ。入館までのわずかな道のりはアスファルトが熱を帯びて蒸し暑かったが、組まれた腕の隙間が離れていくことはなかった。
子供向けに水族館にいる生物たちが描かれた入館前のカーペットを見て菅原は微笑んだ。チケット購入窓口まで行くと受付のお姉さんが待っていた。澤村が財布を取り出し、金を払う。
「ありがとう大地」
「まぁ久しぶりのデートだからな」
デート。
付き合い始めたは良いが部活に忙しく、中々、プライベートで遊びに行く時間がとれなかった。本当は丸一日使って出かけたかったが、結局、午前中に練習を終わらせてからでないと時間が取れなかった。
購入したチケットでゲートをくぐる。順路順へ行こうとする澤村の腕を菅原が引っ張っていく。どこか行きたいところがあるのかと思ったが好き勝手歩いているらしい。
どの生物の前へ行っても菅原ははしゃいでいた。ペンギンを見て「影山みたい」と言ったり「いいや、田中だろう」という会話をしたり。けれど一番はしゃいでいたのは、水族館のメインである大型水槽だった。
大型水槽はまるで深海の中にいるような気分が味わえることで有名な水族館のメインスポットだった。天井から真横まで人間が透明なシャボン玉の中にいるかのように、海の整体を覗き見することが出来る。
天窓から入り込んでいるのか、ライトアップされているのか、水が透けて菅原の顔にかかった。

「綺麗だね、大地」
「見たかったんだろ」
「うん。大地ときたかったんだ」

写真で見た時、とても綺麗だったから大地と一緒に感動を味わいたかったのだという菅原は告げた。今さら恥じらうように組んでいた腕を外そうとしたが、大地の手によってさえぎられてしまう。
引き寄せられ、胸板の中へ納められる。
水槽の光を帯びて、海の中にいる菅原はまるで人魚のように美しかった。この光景の誰よりも。惚気というならそうなのだろうと大地は引き寄せた手の力を僅かに強めた。

「スガが一番綺麗だった」
「大地はずるいなぁ」

にやにやと口角を上げる菅原は手を離したときとは違い、すでに自分のペースを取り戻していたが、耳朶先がわずかに真っ赤へ染まるのを大地は見逃さなかった。もう少しこの手を握ったまま水槽を見つめようかと、菅原の真横を亀が通り過ぎて行った。