及川と岩泉♀ | ナノ
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膝の上に頭を預けながらテレビを見る及川の存在を岩泉は無視して、勉強を続けた。よく、丸テーブルの隙間からテレビを見ていられるものだと関心しながら、たまに見難そうに眉を顰めているので「だったら座って見るか、クッションにでも頭を乗せろよ」と呆れたりもする。と、いうか、コイツ宿題はどうした、宿題は、というのが岩泉の疑問なのだが。後で写させてと頼んでも絶対に写させてやらねぇと覚悟を決め、膝の上にのっている重石はトレーニングだと言い聞かせ、ペンを動かした。

一方、及川は自分を無視して宿題をする岩泉が面白くなかった。せっかく恋人同士に数日前からなったというのに、岩泉ときたらまるで及川のことを彼氏扱いしない。今までの恋人であれば、及川がひざまくらを要求すると、頬を染め、優しく頭を撫でてくれた。
寧ろ、飾り気ない態度が岩泉の良さであると思っているし、気が狂うほど親しい距離感にいたのだから今さら、恋人同士になったからと言って頭を撫でてもらい、運が良ければキスを岩泉からしてくれるなんて期待していなかったが、無視は酷いよ岩ちゃんと拗ねてしまいそうになった。
頬っぺたを膨らませながら、ああもうこうなったら悪戯してやろうと決意して、顔の向きを反対側にして岩泉の腹に自分の顔があたるような形になる。
岩泉のお腹は女の子のくせに柔らかくない。筋肉が割れており、彼女が一流のスパイカーである証拠のように逞しい。それでも、この腹に欲情してしまうのが及川が男であり彼女のことを好きでいるからという証なのだろう。
唇を尖らせながら、服の上から息を吹きかえる。擽り攻撃には昔から強かった岩泉はびくともせず、もくもくと腕を動かしながら問題を解きすすめている。
及川は、その油断が仇となるんだよ岩ちゃん、と得意げに口角をあげながら、部屋着でガードが薄い岩泉の服の切れ端に手をつっこみ、唇を直接、臍へと押し当て、舌先を伸ばした。

「ひっ――! なにしやがる及川」

突如として岩泉の視線がこちらを向く。
ぎろりと睨まれた及川は、ようやく岩泉の気がこちらを向いたことが嬉しくて、舌先を動かしながらも手を背中へと回し始めた。いまだにスポブラな岩泉は色気がなく、今度、一緒に下着屋さんへ行こうと思いながら、パチンとブラを引っ張る。

「おい、ふざけんな! 離せ」

殴るぞ! と岩泉は言ったが、宣言と同時に殴ってきている。いつもより大げさに振り上げられ、下ろされた手に叩かれた皮膚がじわじわと痛みだしたが、無視されていた時より楽しくて心が弾んで仕方ない。だって、岩泉は今、自分だけを見ているのだから。
宿題でも、ペンでも、数学の記号でも、公式でもない、岩泉の眼に映るのが及川だけであるということが、及川の心を満たしていく。
本当はこの無防備で、警戒心がない恋人に「自業自得だよ」と男のエゴを押し付けて、このまま性行為へ持ち運ぶことは可能だが、そうすると、この強気な恋人が久しぶりに涙を流してしまうので、止めておく。せっかく成就した恋をここで逃がす気はさらさらなく、幼馴染から脱却した今、このまま早く結婚していとさえ思っているのだから。

「痛い、痛いってごめ――ん岩ちゃん!」
「本気で謝ってねぇだろ!」
「うへぺろ!」
「ウゼー――! ほんと、お前は!」

ああ、けどこれくらいは許されるよね、と及川はわずかに気が抜けた岩泉の後頭部を掴み、自分の方へと引き寄せると触れるだけの軽いキスをした。唇にあたるだけのキスに岩泉は真っ赤に顔を染め、力の限り及川の放り投げたがこれくらいは許して欲しいと、殴り飛ばされてしまったのに、幸福そうに及川は微笑んだ。