岩泉と及川 | ナノ
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せっかく遊園地に来たのに、俺は酷く不機嫌で頬っぺたを膨らませている。普段だったらたくさんの女の子に囲まれて、両手に花は俺状態なのに、首から下げたポップコーンを片手に貪りながら携帯を弄る岩ちゃんを見ている。
岩ちゃんに彼女が出来た。はじめての彼女だ。寧ろ今まで俺の傍にいて目立たなかったから、彼女がいない方が可笑しいくらい岩ちゃんは格好いい。俺っていう障害を抜かして岩ちゃんに目をつけた彼女は「流石」と称賛しても良いだろう。けど褒めてあげるのは、それくらいだ。

彼女という特権を利用し過ぎている。
岩ちゃんは人前で携帯を弄るのなんて本当は好きじゃないのに、lineの返信をすることを要求している。岩ちゃんは時間を拘束されるのを尤も嫌うのに彼女は知らないのだ。
それにこの前、作ってきた手作りのシフォンケーキだって、べちゃべちゃで生焼けだった。彼は本当は手作りケーキを食べるのなんか好きじゃないし、半焼けを食わすなんて健康を害する恐れがあるから止めてあげて欲しい。
彼女は付き合いたてといえ、岩ちゃんの甘さに執着して寄りかかり過ぎた。
お陰で俺が岩ちゃんに放置されるという信じられない現象が起きている。

今はアトラクションで待っている最中なんだけど、岩ちゃんは携帯電話ばかり弄る。lineは携帯ですると電力食うからって俺とはしてくれなかった癖に!
放置された結果、横で頬っぺたをリスみたいに膨らませながらポップコーンを食べてはじめ、可愛い遊園地のキャラクターの容器に入れられたポップコーンはみるみるうちに無くなっていった。
岩ちゃんに止めて、嫌だよ、と素直に言えば良いんだけど、それでも彼女を優先されるのが嫌で俺は口を開けない。
今までの岩ちゃんなら俺が嫌そうな雰囲気を醸し出すと止めてくれたのに。ずっと携帯の画面とにらめっこしながら、指を動かしている。
時たま、俺が「ねーねー岩ちゃん」と話しかけたら、携帯電話を降り立たんで止めてくれるんだけど。何時もだったらすらすら動く舌先が乾いて声を発することが出来ない。適当に内容がない会話を交わして、終了。
岩ちゃんはまた携帯電話が震え、lineの世界に戻り出す。
今日は久し振りに出来た休日で、近場の慣れ親しんだ遊園地といえ、俺は岩ちゃんと二人きりのお出掛けを楽しみにしていたというのに。これでは楽しみにしていた俺がまるで馬鹿みたいではないか。
当然だけど、年月の長さがあるぶん、岩ちゃんと自分との間を流れる個人の感覚の差を味わう機会も多いんだけど、今日みたいに空虚な気持ちが沸々と沸きだすのは、小学生の時、林間学校で、俺が中止になるな、中止になるなと願っていたのに、雨が降った時、岩ちゃんがあっさり「お、ラッキー」と告げた時以来だ。もちろん、ラッキーの意味は岩ちゃんからしてみれば中止になったから土曜日と日曜日バレーの練習が出来るって意味合いなんだろうと、すぐに察しはついたけど。俺は俺なりに、岩ちゃんとカレーを作ったりクイズラリーをしたりすることを楽しみにしていたのに。中止になった時、ラッキーと口に出されてしまい衝撃を受けた。後ろから岩ちゃんに愛情のない叩きを食らわせられた気分だ。人間っていうのは無自覚な時の方がよっぽど怖い生き物だ。

「及川、なに止まってんだ進むぞ」


岩ちゃんは俺が列に隙間を作っていることに気づくと腕を引っ張る。岩ちゃん、岩ちゃんって胸のなかで呼んでいると、岩ちゃんはふと振り向いた。
俺は喉元をぎゅっと掴まれてしまったみたいに、岩ちゃんへ夢中になり、い、岩ちゃんと震える肉声で告げると、ようやく俺がなにか言い出したくて疼いているのに気付いた岩ちゃんは動作をゆっくりして俺を見つめる。


「携帯みないで」


やっとの思いで吐き出すと、岩ちゃんは目を泳がせたあと「あーー」と声をだし「悪かったな」と携帯の電源を落とした。
あーーもう岩ちゃん格好いい!たまらない!かっこよすぎだよ!!痺れる!! と震えながら、泣きそうになり岩ちゃんを見つめる。
未だ俺を優先してくれる事実が嬉しくて、岩ちゃんへ抱きついたら、暑いと引き剥がされてしまった。