月島と山口 | ナノ
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君が発した言葉を九千九百九回覚えている。出会ってから。君が発した言葉の数々を拾い集めて俺の中にある小さな脳味噌に保管する。俺が頭を動かすとき、君のことばかり考えていて、君が発する言葉を敏感にとらえることが出来る。
加えて、ツッキーは滅多に饒舌となり語らないので、言葉を覚えることなど容易かった。俺にとってツッキーが発する言葉を覚えるのは、もはや呼吸をすることと同義だ。身体の神経が腐っていって、体の中に根を張る。言葉が蓄積される。目で見て、耳で聞いて、月島蛍という人間を脳内に溜め込んでいく。
そうやって覚えてきて、今まで俺は自分を苦しめたことなどなかった。ツッキーの言葉は天邪鬼だけど、いつだって嘘はなく、素直だった。素直すぎる唇。俺にはいつも、素直だった唇が、今はどうして平然と嘘を語っているのか。理解に苦しんで、喉が渇いてしまう。

ツッキーが嘘を付き始めたのは、影山と恋人同士になってからだった。ツッキーは影山と恋人であることを俺に隠し通したいようなのだ。俺がとっくの昔に気付いているとも知らずに。
ツッキーは他人の心に鈍感な所がある。俺がツッキーに向ける異常な執着だって、彼は悟っていないだろう。ただたんに、男同士で付き合っているという現状を彼は隠し通したいのだ。
ツッキーの嘘は確かに完璧だった。滑らかな舌がぺらぺらと語った。知っているの。ツッキー。ツッキーは嘘をつくとき、いつもより喋るペースが速くなるんだ。一秒くらい。それに、君の賢い頭はごまかす為に様々な付箋を貼る。暴かれても言い訳できるよう。完璧な嘘を撒き散らした付箋を。
けどツッキーだって嘘の数を丁寧に数えているわけじゃない。俺はずっと覚えているけど。ツッキーが吐き出した言葉の数を。ツッキーが覚えていない言葉も。ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、嫌になるほど記憶しているというのに、君が俺を見ることはないんだという現実が慟哭する。
俺の眼から知らない間に涙がたらり、たらりと流れていた。胸の中は荒れ模様。
こういう感情を恋っていうんだねツッキ―
俺は生まれて初めて知ったよ