二口と茂庭 | ナノ
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鏡に映された顔は凡庸を描いたように平坦としていた。鎌先辺りに告げると「嫌味か!!」と唾を飛ばされるだろうが。
鏡に手を触れ、指の腹についた指紋をべちゃくちゃ付着させた。模様が顔に追加されたが、他者が端整だと誉める顔はどうにも歪に曲がってしか見えなかった。
不細工な女がいくら化粧で覆い隠し加工しても、なにひとつとして変わらないのと一緒だと二口は口角をにやりとあげた。
逆に自分ほど「にやり」が似合う人間も珍しいと、生意気をくり貫いた顔を眺め思う。
嫌な顔だなぁ
得したことなど僅かにしかない。容姿を利用した処世術や人脈は楽ではあるが、まるで中身がないものが多い。たいてい、この生意気で思ったことに悪意をおまけして返す口に皆は距離を置く。一線も引かずに、真横に立つものなど、青根のように変わっているか、はじめから人間の裏表を知らない野郎かのどちらかだ。
鏡を指紋でいっぱいにしていく。ぐちゃり、ぐちゃりと波紋が付着して広がりをみせた。内頬を吸いとって噛みきってみる。咥内に鉄の苦い味が蔓延した。数日後には口内炎へと変化して、起伏の激しい感情の波を証明するかのように、大きな痕になるだろう。
吸いとられた肉を剥いで見ると、幾ばくか不細工に変化して個性が見える。
ああ、そうか、そうか、なるほど、俺の顔って個性がなかったんだな
乾いた笑みを溢してみた。美しいと称賛される顔つきのなんとも平坦なことかと、喉元を鳴らした。
二口は本当に綺麗な顔つきというのを知っていた。外見が美しいのではなく、生きてきた年月が重なりあう瞬間を持った表情がある人間が一番輝いているのだ。脳髄から支配されるように、電気信号がばちばちと火花を飛ばした。
脳内で構成される、二口が知る最も美しい顔が写し出される。
自分より一つ年上の幼さを残した顔立ちの癖して、頭を撫でられた先にある気丈な下唇を噛み締めるような表情。ぐいぐい引っ張られ、握られた手に残る刷りきれた皮膚。何度も再構築を重ね堅牢になり、あつい。泣きそうな時に震える肩だったり、面倒事から逃げない真意を写し出す眼差しだったり。何事も適当に済ますことを知らない愚かともいえる性格を写し出したような、美しい顔立ち。平坦ではなく、窪みがあり、近くにいると、不思議と膝に擦りよって泣きたくなるような衝動の正体。

「茂庭さん」


他の誰にも負けない、美しい顔をした人の名前を呟く。彼が愛しくて、しょうがなかった。この、ぐにゃりと歪む顔とはまるで違った本質を持つ彼のすべてが。近付きたくて、離れたくて、天の邪鬼のような自分の性格は、それでもこの平坦な顔を脱却して、彼の傍に並びたいと焦がれていた。