金田一と影山 | ナノ
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初めてのデートを遊園地にしようと決めたのは金田一だった。どこに行く? と話題になった時に、遊園地へ行ったことがないと影山が告げたためだ。

「行ったことねぇよ」

と平然とした口調でなにかおかしいのかという顔つきで言われ、唖然とした。高校時代の友人とも出かけたことはないのかと、デートスポットが掲載された雑誌を指さしながら尋ねると「ねぇよ、しつけ――な」と影山が告げた。高校時代の部活仲間たちと遊びに行くのなら、体育館でバレーをすることが多かった。休日に出かけようというのなら、買い物や近場に水族館が出来たときは足を延ばした記憶しかない。遊園地にわざわざ男四人で出かけようという話が出たことがなく、影山は一度も足を踏み入れたことがなかった。まじか、と金田一は天然保護動物を見つめるかのような眼差しで影山を見つめ、どうせなら遊園地にしようということで話がまとまった。
デート初日は駅で待ち合わせ、どんな服装にしようと中学生のように浮かれてしまった金田一は新しく買った服をおろして来たが、影山はいつもと同じパーカーで少しだけ肩の力が下りた。基本的に顔が整っているのでパーカーを着ていても似合うが、この前、ご飯時に醤油を零したパーカーと同じのだったので残念な気持ちでいっぱいになった。
お金は「奢る!」と告げた金田一に対して「絶対に嫌だ!」と意見を主張する影山がいて、結局、自分の分は自分で出すということに収まった。
入場ゲートをくぐり、影山は待ち受けていた遊園地のイメージキャラクターである着ぐるみに興奮した様子だった。

「おい、なんだよあの可愛いの!」
「あれは、ミカちゃんだ。イメージキャラクターだよ。パンフレットに載ってるけど」
「近づいてもいいのか?」
「むしろ、喜ぶんじゃね。写真撮ってやるよ」

動物を見かけたときのように威嚇した気配を放ちながら近づいて行った影山だが、向こうは動物と違い客商売なので、脅えながらも近づいてくる影山に優しい対応をして、手に持っていた風船を手渡した。

「あ、あざっす」

風船をもらった影山は頭を下げて、帰ってこようとしたが金田一が構える写真に気付いて「あ、あの写真」とイメージキャラクターミカちゃんの着ぐるみに対してお願いをした。着ぐるみは影山の腰に手をまわし、愛くるしい顔を金田一のカメラに向けてくれた。シャッターをおろし、カシャリという音とともに撮影されたデジカメのデーターを金田一の元に帰ってきた影山が見て「あとで、送れよ」と仏頂面で頼んだ。俺にもさっきの可愛さを僅かにでも分けろよ! と思いながら金田一は「判った、わかった」と首をさげた。
次に向かったのはお土産が売ってある店で、けれど目的は頭の上に乗せるカチューシャを購入するためだ。男二人で、カチューシャとは如何なものかという疑問は残るが、せっかく遊園地初体験の影山に楽しさを知ってほしくて金田一は店内へと入った。
着ぐるみと違い気に入らなかった様子の影山は、カチューシャを選ぶ金田一を見下す用に「こんなのつけてなにが楽しいんだよ」と呟いた。

「いいから付けろよ。はい、お前はミカちゃんの耳な」

ネズミをモチーフに作られた耳を影山の頭につける。整った顔つきに良く似合っていたが、なんとなく笑えて吹き出してしまった。それに影山がイラついたのか、頭をチョップで殴られた。
二人ともカチューシャを購入して、前日に乗る予定だったジェットコースターなどのアトラクションを回ることにした。連休の合間にきた遊園地だったので、混雑具合ははじめから予想しており、効率よく乗るために以前、金田一が友達と遊園地に来たときのことを思い出し、最低限の待ち時間で乗れる時間帯などを計算しながらまわっていった。
絶叫系が大丈夫だった影山と金田一は絶叫マシーンを好んでのり、最後も男二人で観覧者に乗るよりも、アトラクション系を責めた方が楽しいだろうという結論のもと、夕日が沈み、帰宅する人間も出る中で遊園地で一番人気と名高いジェットコースターに乗るため待機していた。
流石に慣れないことの連続で疲れたのか、影山が金田一の肩に体重をあずけてきた。寄り掛かってきたという表現よりも、本気で体重を預け自分が楽をしようという魂胆が見え隠れする行動で、金田一は「コイツ」と眉を顰めた。だが、影山にこうやって甘えられるのは別にいやな気がしなかったので、なにも言わずに順番が回ってくるのを待った。

「お前ってさぁ」

突如として影山が喋る。
一日中一緒にいて喋りつかれていたので早く順番が回ってこないかと待機している最中だったので、金田一は驚き「なんだよ」と数秒遅れて返した。

「慣れてるよな、こういう場所」
「? まぁな」

遊園地は好きな方だし、誘われれば友人たちともくる。

「女とも来たことあるだろ」
「そりゃ……」

影山と付き合う前の話だが、クラスの女子と来たことがあった。遊園地とは会話のネタに困らない場所でもあるので、楽しかった。カチューシャをつけるという提案をはじめにしてきたのは、そういえば女子がいるときだった。それまではなんとなく恥ずかしくて着けられなかったのをふと、思い出した。平均男子並みに女の子とは仲が良いが、なぜこんなことを訪ねてくるのだろうと影山を覗き見すると口元を曲げた影山の姿があった。
もしかして……もしかしなくても、と金田一は期待で弾む胸の高鳴りを抑えるように、勘違いだったら俺が傷つくだけだぞ、と保身を唱えながら、影山にだけ聞こえる声で囁く。

「嫉妬して、る??」

無茶苦茶嬉しいんだけど、と金田一は眉を顰めながら影山を見た。すると金田一の言葉を聞いて、顔を赤らめ、悟られてしまったことに苛立ったのか、影山は金田一の足を踏みつけた。
なにすんだよ! と金田一が声を張り上げそうになったときに、順番が回ってきて、ジェットコースターの席に二人は座った。アナウンスが聞こえる中で、影山は、嫉妬していたのかと言われて気づいた気持ちに納得しつつ、だから金田一が慣れた仕種で自分が全く知らない場所をまわり他の人と一緒に楽しんだ名残を見せる度に苛立ったのかということを理解した。
ジェットコースターが出発する時間で良かったと、並んでいる間に日が沈んでしまったのだろう。瞬くような星空を見つめながら、がたがたと音をたてて、動き出すジェットコースターに乗り、この頬の赤みが終わるころには取れていることを祈った。