及川と岩泉 | ナノ
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及川は良く俺にすきすき好きだと勝手な科白を告げてくる。なにが好きだ。都合がいい言葉だな。気持ち悪い野郎め。俺は奥歯を噛み締めながら、抱きつこうとする及川の頭を引っ叩く。
痛いよというのを、憎たらしいことに俺より高い身長で上目使いをしながら(わざとらしく屈まれるのだから、更に苛立つ)こちらを見てくる。
練習始まるぞ! と声を張り上げ、溜息を吐き出して、踵を返して闊歩すると及川は俺の後ろをついてくる。こうやってコイツが後ろから媚びるような声をだして、岩ちゃん許してと懇願するのは昔から嫌じゃない。優越感という程ではないが、ようやく面倒事が収まったという安堵に近い。俺は及川が小走りしなくちゃならない程度に足を進め、ぱたぱたと後ろをついてくる及川の姿を耳で確認する。
けれど、突如としてそのぱたぱたとした音が鳴り止み、女子たちの歓声に包まれるのだから、胸の中でどうしようもない、薄暗いものが湧き出す。
以前だったら、一度止めに入って「ほらコート行くぞ」と叱り飛ばすと、道中で女子に声をかけられても「ごめんね、岩ちゃんが怒るから」と人にせいにしてんじゃねぇぞテメェ! という言葉で断っていたのだが。
最近は、一度承諾したはずなのに、女子から声をかけられると立ち止まって、足音をストップさせる。俺は溜息を吐き出し、ああ本当にテメェの子守りなんて御免だと腹立たしい気持ちと格闘しながら、若干、俺みてぇなモテない男子が入りにくい雰囲気の中へずかずか足を侵入させた。


「いい加減にしろ!」
と及川の頭を殴った。及川は目をぱちぱちさせ、芸能人みたいに長い睫毛が影を作っていた。
この時の及川の顔が俺は凄く嫌いだ。死ね! と唾を飛ばしてやりたくなる。
今まで掌の上で掌握していたはずの及川が錯覚だったと知らされる。岩ちゃんのいうことをちゃんと聞いてあげていたでしょう俺。という及川の本心が透けてみえる。
本当は俺のこと好きなくせに、と言われているような気分にもなる。俺のこと好きならもっと俺のことかまってよ、気にしてよ! と言われているような気分にもなる。
目線だけでこんなに誰かへ感情を伝えることが出来る人間も珍しいだろう。及川、お前の特技って書いていいと思うぜ。
及川の野郎なんかに、降参するのはまっぴらごめんで、好きだ好きだって俺に告げてくるその言葉、どれくらいがお前の本心だよと言ってやりたい疑心暗鬼にも包まれ。俺は喉元を鳴らすかのように、及川をじっと見つめ、首根っこをひっつかみ、女子の群れから及川を引き摺りだした。

引き摺られながら及川は口を開く。

「嫉妬した?」
「は、馬鹿か」
「え――! 嫉妬した癖に。ふふ、岩ちゃんったら俺のこと大好きだね」
「お前が俺に引き摺られなくても練習に出てくれるようになったら大好きだね」
「俺とずっと一緒にいたいってこと?」

いい加減黙れよ! クソ川!