月島と山口 | ナノ
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山口は恋愛面に関して鈍感だと月島は思う。
他のことでは鋭いのだ。例えば月島が不機嫌だと直ぐに気配を察してフォローに回ったり、迷惑そうに眉を顰めている相手がいたら、素早く間に入って仲を取り持ったりする。
月島本人にしてみればお節介で、有り難いとは微塵も思っていない行為なのだが、鋭さだけでいうと認めてやっても良いとは思っていた。それなのに、山口は恋愛面に対してとても鈍感なのだ。
例えば、月島が女子と喋っているのを見て、明らかに不機嫌丸出しの空気を醸し出しているというのに、いつもみたいに間へ割り込んできて「ねぇねぇ」と声をかけない。目線がばっちり合うと「邪魔しないから安心してね」と親指を立てにこやかな笑みを作るのだ。寧ろこちらは邪魔しにこいと言っているのに、なぜ判らないんだと月島は苛立つ。
他にもある。
山口は良く女子から月島の情報を聞き出そうと囲まれることがある。常にヘッドフォンをして下界との接触を断絶するかのように月島は教室の椅子に腰かけていることが多かった。
勇気ある女子は月島に対して図々しく境界線を乗り越え話しかけてくるが、そうでない女子は比較的話しやすく、顔面偏差値もそれほど高くない山口から月島の情報を聞き出そうとするのだ。
山口は簡単に月島のことを自慢する。
お前のことじゃないだろう、とツッコミを入れたいところだが、まるで自分のことのように「ツッキーはね!」と意気揚々と声を弾ませ語るのだ。
稀に山口でも答えられない質問を女子から投げかけられ、言葉をうっと詰まらせながら適当に誤魔化したあと「ねぇねぇツッキー」と答えられなかった質問を月島に尋ねてくる。
月島は、直後に尋ねられる山口の月島の気分を窺ったような口の聞き方が嫌いだったし、どうせ喋った所で山口の唇から女子相手に情報が伝わるのだと思うと、稀に山口の顔をぶん殴って気絶させてやりたい衝動に襲われることがあった。
普段なら、山口が率先して月島の苛立ちの琴線へ触れようとすることはない。冗談で月島が山口を怒ることがあるが、本気で怒りを口にしているわけではないのに。女や恋愛が絡んでくる場面であると、山口は無神経に成り下がる。
始めのうちは、そうまでして女子と喋っていたいのか、僕を餌に女子と喋ろうとするなんて、と奥歯を噛み締めて、冗談ではなく本気で山口を突き飛ばしてやろうかと思ったが、暫く山口を観察していてそうではないことに月島は気づいてしまった。
あんなに、意気揚々と嬉しそうに興奮した状態で山口は月島のことを「ツッキーはね、ツッキーはね!」と声高らかに語るのに、奥の方の眼差しはとうに冷え切っていて、無理に口角をあげ、なんともいえない表情で悲しんでいるのが判った。

――なに耐えてるの

月島はその山口の表情を発見した時、率直に思った。お前は一体何を我慢しているのだと。頭の中で、児玉する、いらいらいらいらいらいらいらいら、という無数の文字が響き渡って舌先を噛み切ってしまいたかった。
山口の眼差しに映っていたのは、ツッキーのことは俺が一番よく知っているんだという僅かな優越感と、けれど、しょせん女の子には敵わないという悲しみの色だった。男というだけで、自分は月島と結ばれることは一生無いのだと決めつけ、だったら早く月島が女と付き合ってくれればこの気持ちに諦めがつくのにと嘆きながらも、ああそれでも一緒にいたいなぁと、微かな願望を抱きながら、あははは、どうすることも出来ないのに、と渇いた声を漏らしていた。
その山口の吐露された気持ちを月島が覗いてしまった時に、コイツはなんて鈍感なんだろうと、月島は思った。
他の女の興味なんか初めからない。女子と喋るのは面倒極まりない。と、いうか山口以外の人間と率先して話す自分の姿を見たことがないと山口は知っている筈なのに、どうしてそんなにマイナス思考に陥れるんだと嘲笑ってやりたかった。
馬鹿じゃないだろうか。僕はお前で抜けるんだよ、と耐え忍ぶように消滅しろと願っている恋心を抱いている山口にいつか告げてやろうと月島は思った。
きっと、鈍感な山口は信じられないという顔をするだろう。
間抜けにも口を逆三角形にぽかんと開き、え、ツッキーいったいなに言ってるの。冗談キツイよ、と愛想笑いをして、そういう冗談ならやめてよ、と泣きそうな顔をしながら下唇を噛み締めるのだろう。
涙で潤んだ双眸を隠す為に、いつも月島のことばかり見ている視線はわずかに下がり、足元を見る。
その隙を狙って、両肩を強引に鷲掴んでやろう。
痛いと眉間に皺を寄せる山口の口元を塞ぎ、この気持ちが本物であることを証明してやろうと月島は思った。

けれど、今はまだ言わない。鈍感な山口が悪いので、暫く傷つく彼を堪能してから、機会を窺おう。どうせなら教室がいい。落日し橙色に染まった教室で日誌を書く彼の腕を掴み口付けして、学校であることを気にする山口の紅潮した顔は見物だろうと、喉仏を鳴らした。