金田一と影山 | ナノ
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大学は出会いの場所。飲み会なんて、それにぴったりの場所だ。
新歓に来ていると可愛らしい女の子とか、美人な女のことか、出会いは色々あるわけで。その中で金田一にすり寄ってきて、胸板を撫でるといったボディタッチを積極的に行う人間もいるわけで。
別にモテないわけではないのだと金田一は自惚れたりもする。
身体が大きいので怖がられることもあるが、屈強な体躯が男らしくて好ましいと言ってくれる女の子もいる。
居酒屋で率先して小皿に料理を取り分けたり、注文したいという意見を顔に張り付けている女がいれば、店員を呼んでやって注文を一緒にしてやったりと、世話焼きな一面も発揮する。
本人がそのつもりがなくても、長年、体育会系縦社会で培われた真面目さだったり、面倒見の良さが発揮されて、本当にモテないわけではないのに、金田一は女の子からの誘いを泣く泣く断って、二次会には参加せずに帰ってくるのだ。

帰宅したばかりのアパートには既に電気が点灯していた。消し忘れた訳ではなく、一人暮らしを開始した八畳のアパートの合鍵を恋人に手渡しているので、輝く部屋の明かりは恋人が部屋にいるという証だろう。チャイムを鳴らし、玄関先まで迎えに来てくれないかと期待したが、扉が開かれることなく、若干むなしい気持ちで扉を開ける。

「ただいま」
「おう、おかえり」

なぜか慌てた用な表情をした恋人である影山が飲むヨーグルトを片手に立っていた。ごくごくと咽喉仏を動かして、嚥下していく光景を眺め、肩で溜息を吐き出す。

「風呂入った? お湯湧いてる?」
「沸かし方わかんねぇからシャワーだけ借りた」
「お前! この間も教えただろうが」
「忘れた」

先週教えたばかりの風呂の沸かし方。熱心に教えていたつもりだったが生返事だった影山の光景を思い出す。初めから覚える気がないのだろうと金田一は納得をして、もう教えるのを諦める。
ガスの元栓を開けて、湯船に腺をして、蛇口を捻る。温度は少し高めに設置して置く。溜めている間に冷めてしまうからだ。「もう一度入るか?」と尋ねると「もらう」と容赦なく返事をした恋人は風呂がどちらかというと好きな方に入るのだから、風呂の沸かし方くらい覚えて欲しいと思った。
湯船にお湯が溜まると早風呂の金田一から先にお湯をいただくことになる。身体と頭を先に洗って、湯船に浸かると、アルコールが抜けていくような感覚に、顔が真っ赤になる。顔をお湯でじゃぶじゃぶと洗って、風呂を出た。
風呂から上がると雑誌を読んでいた影山の顔を覗きこむようにして「あがったぞ」と告げると、影山は顔を真っ赤に染めた。理由はわかっていて、いつも髪の毛を上げている金田一が風呂上りは、しな垂れて髪型が変わる。髪型が変わった風呂上りの金田一に影山は弱いのだ。そのことを金田一が知ったのは、こうして二人だけの空間を手に入れたつい最近のことである。

「風呂」
「判ってる! 髪の毛くらい乾かしてこいよ! 雑誌濡れただろう」
「それ俺の雑誌じゃん。別にいいけどさ」
「ウッセ――」

怒鳴りながら起き上がって風呂場へ駆けこむ恋人を可愛いと思ってしまうから、金田一は重傷だと耳朶まで赤く染まり上がった顔を手のひらで隠した。
別に影山は特別可愛いわけじゃない。新歓に集まっていた女の子たちに比べれば優しさなんてあってないようなもので。自分を包み込んでくれるであろう、ふわふわした肉体でもない。
抱けば筋肉の筋張った身体が痛いし、冷たくて、自分が頑張って喋っていても半分くらい話を聞いていない時が稀にある。素直じゃないし、好きだとは滅多に言ってもくれない。風呂の沸かし方さえ知らないような奴なのに。
可愛らしい女の子たちの誘いを断ってまで、家に帰ってきてしまう。
髪の毛が濡れた金田一の顔を見て頬を高潮させ、照れる影山を見て、まったく可愛く見えなかった正真正銘、男である影山が他の誰よりも可愛く写るから不思議でならない。
けれど、この現象を一言で纏める便利な言葉があって、金田一は影山に恋しているのだ。大好きで仕方ないのだ。二人は恋人同士なのだ。それだけの言葉で、纏められる。
早く風呂から上がってきて欲しい気持ちと、冷静になって影山のことを思い返してみると、そういえば、家に帰ってきたときに玄関前までいて、あわてて飲むヨーグルトをラッパ飲みしだしたのは、出迎えにきてくれていたからではないだろうか、という真実に気付いた。頭を抱えて悶絶して、次は扉が開くまで待ってみようと決意した。