及川と岩泉 | ナノ
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好きだということに気付いた。
幼馴染というか腐れ縁。小学生から一緒で、所属していたスポーツ少年団も一緒。俺がセッターで彼がアタッカー。俺があげたトスを彼が打ち抜くのが当たり前の関係。
俺の愚痴なんかさぁ、面倒そうに雑誌を読みながら聞いてくれたり、遅くまで一緒に居残り練習をしてくれたりと、意外と面倒見が良い岩ちゃんの傍にいて、恋をするのは自然のように思えた。
本当に面倒な時は「嫌だ」と自己主張する所とか、一見冷たいと思ってしまう意思の強さとかを俺はとても愛していて、岩ちゃんの傍は居心地が良かった。
息をするみたいに自然な恋だった。人間、楽しい事とか、当たり前のこととか、日常っていうものに、慣れてしまうとどうしても甘えが出て、そこにあるものの素晴らしさに気付かなかったりする。
俺は岩ちゃんのことが好き。
岩ちゃんも俺のこと嫌いじゃない。
嫌いな人間の傍になんかずっといない人だから。岩ちゃんは俺に対して暴言を吐いて、すぐに殴ったり蹴ったり体罰を食らわすけど、傍に居てくれるから、俺のことを嫌いなわけがないし、嫌われているなんてこと考えたことがなかった。「クソ川」とか名前すらまともに呼んでくれないような、時があっても、岩ちゃんが俺に告げる言葉の数々が降り注ぐ日常なんてもの、変わらないと信じ切っていた。

「岩ちゃん好きだよ」

湿気が多い、体育館倉庫で告白をする。岩ちゃんは持っていた鉄柱を足元にゆっくりと置いて、鉄臭くなって手を薙ぎ払うようにして、こちらを向いた。普段、小さな双眸がぱちくりと大きく目を見開き、こちらを向いている。
俺もネットを定位置に置いた後、岩ちゃんの目線から外れないように、じぃっと眺めた。俺の心臓は爆発してしまいそうだった。まさか、返事をもらうまで、こんなに時間がかかるとは思っていなかったのだ。岩ちゃんが悩みながら言葉を吐き出すということはあまりない。単細胞と以前、囃して叱られたことがある。彼は俺と違って頭の切り替えが早く、自分の意見を胸に中に収めて燻る様な乙女チックな性格ではない。ああ、それとも、俺の知らなかった彼がいるのだろうか。眼前には。ずっと、なんでも判っていると思っていた(だって岩ちゃんは俺のことを恐ろしいほどに、理解していたのだ。俺が生きてきた中で、彼ほどの理解者を得られたことは奇跡と表しても良い程に)

「馬鹿か」

岩ちゃんが口を開く。冗談だろうと問われるかと思っていたが、彼はこの数秒間にて、俺が発した言葉の意味をすべて理解したようだった。岩ちゃんの声は僅かに震えていて、俺の胸では号哭が喚いていた。
彼の肉声には今まで俺達が培ってきたものを壊すには十分な効果があった。あの楽しさと平穏を詰め込み、変わらぬ関係で居られた日々は、俺の浅はかなひと言により、崩れ去ってしまったのだと判った。幼馴染だったらずっと一緒に居られる。腐れ縁という名前通りに。けれど、恋愛感情なんて厄介なものに手を出してしまうと、俺と岩ちゃんの関係は、それこそ息を飲むように自然と崩壊してしまっても可笑しくないものだったのだ。
岩ちゃんが横にいる時に感じる、楽しかった時間に眠る結晶が、記憶の深い眠りから突然覚めて、俺を押し返した。新しい風の一吹きのように、俺の心に岩ちゃんと過ごした香り高いあの日々が蘇って息づいていく。
俺達が友達だった頃の記憶が。
岩ちゃんは俺の手を取った。いつもみたいに頭を容赦なく引っ叩いた。俺は痛いよ! といいながらも、俺より少し目線が低い岩ちゃんの顔に覗き込んで、息が当たる距離にまで顔を近づけた。彼が瞬きをする隙間に突くように、唇に唇を当てた。
新しい関係の始まりを意味していた。