金田一と影山 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




中学時代を切り取った一枚の写真を金田一は破れずにいた。写真には影山が自分へ向けてトスを放つ光景が切り取られていた。
オーバーハンドのポーズはお釈迦様が「いただきます」と拝んだ後に広げた形に似ている。オーバーハンドの形を習う時、監督から「両手を合わせて親指と人差し指だけ残すようにして離れるんだ」と習った。
影山のポーズは基礎に乗っ取り、一番美しいパスを紡ぎだすものだ。習い始めた初心者でも影山のポーズが美しいとわかるほどに。
このトスが自分に上がっていたのだと思いだす。始めのうちは、着いていくことが出来た。足を踏み込んで、床を蹴り上げて、仰け反るように胸板を見せ、手のひらでばしんと叩く。影山のボールは上手に手のひらにあたり、金田一が放った弾道が床を叩き付けた。
普段、滅多なことでは笑わない影山の顔がトスを上げた一瞬だけゆるやかに満足そうな顔をして歪むことを、金田一は知っていた。一度、見てしまえば、病みつきになるような笑みを集約させた光景は視界を色鮮やかに染めていく。出来ることなら、ずっと打っていたかったトスを先に拒絶したのはこちらからだった。

もう、何年経ったと思っている。
金田一は奥歯を噛み締めて、破れない写真を卒業アルバムの中に忍ばせた。卒業アルバムは学生時代の思い出を断片的に詰め込めたものだ。皆が卒業アルバムにふさわしい学生らしく世間の穢れを知らない白い歯を見せている中で、影山はふてくされ、悠遠を眺めていた。こころなど、ここにはないように。
自分を裏切ったバレーなど興味関心がないように。
あの時は、平気なのかよ、と苛立ったが高校になってから考えてみると、平気なわけではなかったのだ。影山だって傷ついていたということを理解して、いたたまれない気持ちになったのは、烏野との練習試合が終わってからだった。
視点を変えればおそらくどちらも悪者になる事態だな、と金田一は苦笑して、卒業アルバムを本棚に戻す。
はやく写真を破れる日が来ることを願っていると、玄関のチャイムが鳴った。


ぴんぽん。


覗いた先には影山がふてくされた顔をして立っていた。