及川と影山 | ナノ
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奥歯に及川の指が触れた。「スポーツ選手にとって歯は大事だよ」と影山に告げながら、幼い影山の歯に触れる。指に唾液が付着して、加工された歯の醜さを嘲笑う。つついて遊び終わると、反応を窺うかのように咥内から手を取り出した。対面して、笑いかけると、影山は戸惑いながら喋る。

「虫歯なんてはじめてできました」

歯は誰に言われるまでもなく丁寧に磨いてきた。食後に甘いものを必要とはしなかった。けれど、虫歯は出来た。特大の虫歯が暗い闇をぽっかりつくって、闇を待ち構えていた。走った痛みは神経を刺激する、味わったことのない、刺激。
手術中は口をあけ、無防備な姿をさらけ出した。ドリルが回転する音が通り過ぎると、歯を一枚一枚、丁寧にスライスされているようだった。身体が剥離されていく。指先が繋いだ神経が、ボールを操る神経が殺されていくようで、なんとも気持ち悪かった。

「だからもう、なりません」

呟く影山の口に及川は再び手を突っ込んだ。

「知ってる虫歯って移るんだよ」

黴菌だから、唾液感染するんだ。そういいながら、及川は指を抜いた。
あ、駄目です、やめて下さい、と影山が訴える前に脣が脣につく。声を塞ぐように隙間から舌をいれて、手術が施されたばかりの、銀色をした歯へ触れた。穴があいていた、歯は修復され虫歯の名残は他より、ぴかぴかに光った表面くらいだ。
無知な影山は腕を及川の胸板にあて、抵抗する。押し返そうとする。虫歯が移るからやめて下さい、と声を漏らす。
虫歯なんて移らないよ、赤ん坊じゃないんだから、ということを及川は教えない。影山がいつまで、自分が教えたことを律儀に守っているのか、見物だった。腹を抱えて笑いたかった。
ちょっぴり意地悪だと、芽生えもしない罪悪感に謝罪しながら、咥内を舌先で弄ぶ。酸欠になってきた顔色が紅潮している。

脣を離し、泣きそうな影山を見て頭を撫でる。

「鼻で息をするんだよ」

今度は本当のことを教える。バレーではないので、見て学ぶのは無理だ。影山に息継ぎを教えながら、再び虫歯がなくなった銀色の歯へ触れた。