金田一と影山 | ナノ
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例えばヒールで踏みつけられているような。背徳感といえば良いのか。隠れた願望が疼く。健全な男子高校生が、下らない現実とはかけ離れたAVを見て騒ぎ立てる感覚に似ている。始めは笑っているのに、脱衣が進むにつれ、喉仏が上下して、ベルトに手が伸びる。奥歯を噛み締めて汁が流れ出た肉棒を握りしめる。気付いたら、白濁が出ている。残るのは笑えるのに笑えない、性欲を吐き出したというのに、残る気持ち悪い罪悪感。背徳に負けて、胃が捻れる。麻薬のような男だった。なぁ、お前のことだよ、影山。


そんなことを金田一は額に汗を付着させながら喋った。
眼前に腰掛け、痩身な身体からは想像出来ない食べ物を胃袋に放り込んでいる影山本人は、ゲップをした。下品というより、無頓着。整った造形の顔でなければ迫害される仕草だ。
大学に進学するさいに借りた、金田一のアパートで二人きりだから良いものの。公衆の場でも影山は気にすることなく、ゲップくらいするだろう。

「そんなことを俺は思ってたんだよ」
「あっそ」

金田一の話を聞いていたのかと訪ね返したくなるほど影山は気にする素振りを見せず、ハンバーガーを噛んでいる。
金田一と影山が付き合いだして既に一年以上経過している。金田一にしてみれば、ようやく吐露出来た気持ちだったのに。影山にとっては、眼前にあるハンバーガーの方が大事なのだ。

「聞けよ」
「聞いてる」


一応、影山は聞いていた。金田一の思春期真っ最中を謳歌するような、恥ずかしい告白を。もしゃもしゃと食べながら耳を傾けていた。
そういう類いの妄想や罪悪感を影山は抱いたことがない。金田一と大学生になり、付き合う出すまで夢精だけで性欲処理を済ませてきたのだから。AVがどうだとか訪ねられても、理解の範疇から越えている会話に違いなかった。今の会話から察することが出来るのは、金田一が高校時代(いや下手したら中学時代から)ゲイであったこと。影山に欲情していたこと。その欲情と戦っていたこと。くらいだ。今更、自分になにを告げて慰めて欲しいのかわからず、とりあえず肩を撫でる。

「ちげぇよ!!」
「うわ、びびった。ビビらすなよ、金田一」
「お前がっ!! 俺は真剣に悩んでんのによ」
「だったら、遠回しにいわず、素直にぶち込んでこいよ。お前の会話だと意味不明なんだけど」

金田一は、そうだコイツはそういう鈍感でどうしようもない奴だったと溜め息を吐き出した。他人の気持ちに鈍い。自分の心には敏感な癖して。自分を中心にしか世界を構築出来ないのだ。昔に比べるとずいぶんマシになったが。長年積み重ねてきた性格の根源が変わるわけがない。

(別に良いんだけどよ)

先に惚れた方が恋愛は負けだ。あーだこうだと言いながら、影山の世話を焼く自分が嫌いではない。振り回されるのも、既に慣れた。
「俺が言いたいのは、そろそろセックスさせて欲しいってことなんだけど。何年、我慢すれば良いんだよ」


俺はお前を性的な目で見てたんだよ。察してくれよ。長い間。お前が無意識に振り撒く色気にやられてたんだ。言っておくけど、中学時代、お前の色気にやられてたの俺だけじゃねぇからな。性欲処理くらい自分で済ませておけよ。欲求不満の色気みたいのが出てたから。分かったか―――と金田一は口を動かした。呆れたように下を向いていたので影山の顔を見ていなかった。
金田一の話を聞きながら、影山は真っ赤に頬を染めだした。
な、なに恥ずかしいこと言ってんだ! という気持ちになった。先ほどの会話内容を思いだし、思わず自身の身体を抱き締めた。視線が急に恥ずかしいものになった。

金田一がすべてを言い終わり、顔をあげると頭突きを食らわされた。不意打ちにおでこを押さえながら痛さに耐えていると、胸ぐらを掴まれ、キスされた。
影山は出来るだけ余裕を顔に張り付けながら、唇をむさぼった。


「さっさと言え」


机を跨ぎ、金田一を押し倒す。
上等だといえる余裕は金田一にはなく、顔を赤面させた。