黒尾と研磨 | ナノ
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「一分間隣の人と喋って下さい」

中学の入学式。
初めて会ったクラスメイトと対面して、喋らされた。一分間。自己紹介をかねて、適当にお喋りしましょう。ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃ。相手は喋ってくれた。おれはしどろもどろに、舌を噛みながら喋った。はい、お喋りしました。怖いです。うん、けど、相手には悪い印象は受けなかった。おれだったら俺みたいな奴と喋るの、嫌、だから。

「じゃあ、今、言った人の長所を出来るだけ多く答えて下さい」

先生は手のひらをぱんぱん合わせて拍手する。ぱん、ぱん。ぱん、ぱん。おれは音を聞いている。鉛筆を握りしめて買い与えられたばかり。新品のノートにその人の長所を書いていく。大変だろうな。俺の長所を探らなきゃいけないなんて。うん。

「おれは、貴方のこと、賢いと思った。喋るの上手だし、周りを元気にすることが出来る人だと、思う。経験してきたこともほうふ。自分ひとりで頑張れる人」

もっといっぱいあったのに、おれのノートに書かれた文字はこれっぽっちだった。書くために与えられた時間が少なすぎる。おれ以外の奴はノートに書いていないということに後で気付いた。
相手の子は「ゆっくり考えて話すことが出来る人で、相手の話に聞くことに長けていると思う」と答えてくれた。おれの短所を精一杯、長所としていってくれた。先生は良く出来ましたと拍手した後「これから一年、よろしくお願いしますね」といった。
席にがたごと座ろうと椅子をひくと、さっき喋っていた子が「今のさ、自分の短所になるんだって。一分間喋ったくらいで人の好い所なんて見つからないでしょう? だから、たいていの人が咄嗟に自分がない部分を無意識にあげているんだってさ」と耳打ちしてくれた。おれは、首をゆっくりさげて、腰かけた。「そうなんだ」と必死に乾いた声をだした。おれに足りないところか。わかりやすいね。おれに足りない所。


授業が終わって、クロが迎えにきた。上級生のお迎えは目立つ。廊下でクロが立っていると女の子が黄色い声をあげる。クロは女の子にモテる。身長も高いし、寝癖のくせに、かっこいい髪型をしている。女の子が放っておかない。
呼ばれて、ひょうひょいついていく。クロの背中に手を伸ばす。引っ掻くと「なにすんだ」と怒鳴られた。けど、歩くのを面倒そうな顔をしていると、クロはおれの手を引っ張って歩いてくれた。
おれに足りないところ。頭は悪くないけど、世間的に見て賢い人じゃない。勉強ができると賢いは違うから。喋るの上手じゃない。下手糞。周りを気にすることは出来ない。悪い一面で、視線がズキズキ刺さる時は、周囲の眼が気になるけど。まいぺーす。経験も少ない。豊富とは程遠いね。うん、一人じゃやっていけない。クロがこの手をあっさり放したらどうすればいいんだろう。小学生の時は良かった。クロが整えてくれた環境がすでにあった。けど、この新しい校舎と人間がひしめき合う中で、クロに見放されたら、どうするんだろう、おれ。