日向と影山 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



メロンパンが食べたい! と声を上げたのは日向だった。影山は自転車を押している日向の横でもうすぐコンビニに着こうというのに、なぜメロンパンなのか眉を顰めた。コンビニへ行くと熱々のおでんも肉まんだって待っている。日向は両頬にそれを詰め込みながらリスのような顔をして、帰るのが日課なのに。なぜ、唐突にメロンパンなのだろうと、疑問に思ったのでとりあえず凸ピンした。

「いってぇ――! なにすんだよ、影山」
「ニヤけた顔がムカついて」
「ムカつくってお前……! 影山こそもっと笑えよな。笑ったらカッコイーし、可愛いだろうに」
「笑ってるだろ?」
「狂人顔は笑顔に入らないって」
「くっ――」

狂人顔と言われて奥歯を噛み締めた。失礼な奴だ。
肝心のメロンパンに絡ますことが出来なかった会話をいったん終了して一呼吸置いてから口を開く。このままいいつもの調子で流されてしまえば、質問したかった内容は吹っ飛んでしまう。日向と喋っている時、口下手な自分自身が消え失せ、日向が持つ特融の空気に包まれるのは好きだが、今日はこのまま、流されるわけにはいかない。

「メロンパンってなんでだよ」
「え? 食べたくなったから」
「だから、なんで食べたくなったんだよ!!!」
「ど、怒鳴るなよ。なんでって。あ――あのさ、昔、屋台でメロンパン売ってるおっちゃんと出会ったことがあって、その日も、こうした夕焼けだった」

日向が指差す方に蕩けてしまいそうな真ん丸の夕日が沈みかけていた。半熟の目玉焼きを割ったみたいに、潤んでいて、圧倒される朱色に肌色が馴染んでいく。

「カリっと表面の甘味が良い香りしててさ――すっげぇ食べたかったんだけど、母ちゃんに買って貰えないこと思い出したら、食べたくなった」

屋台で売っているというだけで、幼かった日向にしてみれば特別輝いてみえた。食欲をそそられるメロンパンの風味に涎を飲み込んで、母親の足を引っ張ったが、財布のひもが固い母親はメロンパンを買ってくれなかった。あのメロンパンを食べたら、どれだけ美味しいだろうということを、幼い日向は考えた。口の中でじゅわっと解けて、表面のグラニュー糖が味蕾を刺激して、甘くまろやかな風味が咥内を瞬く間に支配していき、幸せに浸れるだろうと。

「単細胞馬鹿だな」
「影山に言われたくね――」
「ウッセ――」

ケラケラと補修を受けていたことを思い出し笑っている日向に「お前もだろうが」と文句を告げる。日向はまぁ、そうだけど、さ、と歯切れが悪そうに答えたあと、真っ赤に染まった夕日を見て、ああ、うん――

「幸せな気分だから影山と一緒にいて食べたくなったんだ」

へらへらと笑いながら「コンビニ着いた!」と声を上げる日向は駆け足になる。自転車を止め振り返ると夕日と同じくらい真っ赤になった影山がいて「メロンパン食べようぜ」と手招きした。