及川と岩泉 | ナノ
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お前なに悩んでんの? と岩ちゃんが首を傾げながら尋ねてきた。可愛い、岩ちゃん。覗き込んで上目使いなんてやるじゃないってふざけると、怒って、殴られた。別に悩んでないよ、とやれやれだね、ということを張付けて返すと、溜息をつかれた。
しょうがないなぁって、苦笑して、言えないよ、と言葉を濁すと、頭をごしごし鷲掴みにされて撫でられた。折角セットした髪型が乱れちゃうよ! というと、もうテメェは黙ってろ! と唾を飛ばされたけど、追求しない彼の肉声が心地よかった。
岩ちゃんは昔から俺が落ち込むと、訪れて全部を見抜いた双眸をする。人体をスキャンされちゃう感触って気持ち良いものじゃない筈なんだけど、岩ちゃんの双眸は嫌いじゃないよ。俺。他者を鞭打つのが溜らない連中ってさ、人の弱味を見つけるとハイエナみたいに貪るのが大好きで、隙間を突くんだよね。突っついて安心するんだ。大丈夫。大丈夫だって。そういう奴に限って自分より上の人間が表れたり、手の届かない存在だったりすると、矮躯になり身体を丸め、息を殺すのさ。
なんで、判るかって俺も本来、そっち側の人間だから。自分より落魄れているヤツがいると安心する。ほら、天才って怖いでしょう。俺も天才だけど。天才より、上はいるよ。足音を立てて近づいてきて、純情な顔して、築き上げてきたものを一日で砕くヤツがさ。俺は隙間を見つけて、心のどこかで安堵した経験がある。卒業って武器を使って逃げ切った経験もある。自分の方が上だって。あ――あ、うんうん、嫌な子だねぇ。けど、人間ってそんなもんじゃない。ある程度、孕んでいると思うんだよね。
岩ちゃんにもさ、無いとはいわないよ。あ、けど少ないんだろうねっていうのは思っていて。俺のダメな所があっても、付け込むような卑怯な真似はしない。自分で受け入れちゃって、カッコイイったらありゃしない。こんなこと、口が裂けても言ってあげないけどさ。
くしゃり。くしゃり。岩ちゃんが頭を撫でる。俺は三角座りをして、虚空を見つめる。なにも言わない。君の手のひらがただただ、あたたかくて、いつもの俺に戻るまでもうちょっとだけかかりそうだね。