「なーパリスー、男にかわいいって思うのってやっぱりアウトだと思う?」


相談に乗ってほしいのだと呼び出されたのは、近所のラーメン屋だった。
昼間に何気ラーメン食いてえなあ、と呟いたのを覚えてたんだろうから、たまにこういうとこ尊敬する。
今日は奢るから好きなの頼んで。
そう言ったアベリオンに容赦なく注文を頼んで、運ばれてきた麺を啜った瞬間にそんなことを急に言い出すから思わず吹き出した。


「うっわ、きたないんだけど」
「げほっ、ごほっ、……誰のせいだと思ってんだよ!」


俺ですねごめんごめん、なんて軽く言うこいつを殴りたくなったけど、奢ってもらった手前それは止めた。
相談の内容は大方想像がついた。
俺がけしかけてもどうにかなるどころか悪化したらしいシーフォンとの関係だろうと思った。
何を言い出すだろうか、とこっちは内心結構びくついてたってのに、予想外に裏切られた気分だ。
まさかそう来るとは思ってなかったし、思うわけねえよ。
確かにアベリオンが珍しく誰かを構いまくってるのは引っ掛かってた。
だからって、と動揺を隠せないまま、少し悩む。


「あー…なんつうか、どっちの意味で思ってるかによるだろ、アウトかはさ」


俺が思うに可愛い、と思うには大きく分けて2種類あるように思う。
妹や弟やペットに抱くような愛玩の意味のものと、そうじゃないものと、だ。
アベリオンの抱くそれは前者であってほしい、と少しだけ思う。
どっちって?と首を傾げるアベリオンに、わかりやすい提示を考える。


「あー…抱きしめたいって思うか抱きたいって思うか、もし後者ならアウトじゃねえか?」
「抱きたいは……ない、と思う」
「おいなんだその間」
「そんな風に考えたことないっつーか、思うより先に手出てる」
「自重しろよ、理性ってもんがねえのか!女にやってたら殴られてんぞ」
「いや、みんながみんなネルみたいに手早くないだろ」
「……まあ、それもそうだ、つーかそうだったら女怖すぎる」
「でもそうだね、抱きしめ……ああ、あるか、あと頭撫でんの気付くと手伸びてるし」


呆れたように笑いながら、アベリオンは自分の分の炒飯を咀嚼した。
抱きしめてる、頭撫でてるのは常…ね、本当に前者に当て嵌めていいか少し迷う。
大体、流れ的に相手はあのシーフォンだろ?
男でそんだけあからさまにつるんでんの、俺かシーフォンだけだったと思う。
隣のクラスの奴らともそこそこ仲良いらしいけど、たぶんない、俺もありえない、なら残るのはあいつだけだ。
可愛いげの欠片もない…や、単純さはたまに可愛いげもあるかもしんねえけど、でもやっぱねえなあ、と思う。
叩きたくなる、なら大いに理解できるけど。
あーあ、あんまり考えたくねえけど、結構まじなんじゃなかろうか、こいつも。


「もう面倒だからシーフォンに好きだって言っちまえば?」
「っ、げほ、……ちょ、反対はいった…、!」
「ほら水、」
「……あー死ぬかと……つーか俺一言もシーフォンだなんて言ってないんだけど」
「そんだけ動揺しといて否定すんのは、さすがにきついぞ」
「……言えるわけねーじゃん、正直に言えよ、気持ち悪くねえ?」
「キモいのは今に始まったことじゃねーよ、ふたりともねえよ」
「ひっでえ……は?ふたり?」


ああ、口が滑った、とそう思った。
だってそうも言いたくなるだろ、シーフォンのあんな様子見てたら。
まあ仕方が無いからアベリオンと話すように促してやったけど、正直やってられるかと思う。
(まさか悪化するなんざ思いもしなかったからこうして手回してやってるんだけど)

シーフォンは2週間ほど避けられてるとか抜かしてた。
だが、現状は電話が来ないプラス出ないに加えて、メールが日置になったのと、毎日のようには家に来なくなっただけらしかった。
後は昼飯に顔出さなくなったのと、あとなんだっけ、まあそんなのいつものことくらいにしか俺は思わなかった。
それでも週末には俺とアベリオンと3人でならゲームしてたんだぜ?
今までどんだけべったりだったんだお前らって突っ込みたくもなるだろ。
学校じゃぎゃあぎゃあ喧嘩してて、電話もメールも毎日って何話してんだか。
それも喧嘩?よく疲れねえなあ、ともういっそ呆れる。(歳か、俺が歳食っただけか、同い年だよなあ?)
そして何より恋する乙女かお前!と突っ込みたくなり堪えた俺は頑張ったと思う。
言ったらあいつブチ切れてたろうし、だってたぶんきっと図星だ。

こいつ、面倒なのに惚れたなあ、とそう思った。
同性だとかそういうのもそうだけど、人間性っつーか、そういう面で。
アベリオンはそりゃひどく気まぐれで、元々つるむのとか嫌う一匹狼なタイプなのだから。
誰かに執着することなんて、まずない、強いて言うならシーフォンが一番だった。

それでも俺のが付き合いは長い、アベリオンがそんなもんだっては知ってた。
だから寧ろそれを聞いて、今までよく付き合ってたもんだと思った。
念のためこいつにしつこく遠まわしに尋ねても、やはりシーフォンを否定する言葉は漏らさなくて安心した。
また、いつかのように単に悪い意味じゃなく、うざったくなっただけなのだろうと思ったんだ。
別にシーフォンが嫌になっただとかそういうんじゃない。
恐らくただつるむこと自体が少し面倒になったんだと。

そのためシーフォン自身に一度突っ込ませて聞かせようと思ったのだ。
元からそんな奴だとか、嫌ってるわけでもないなんて周りが言ったところで聞くようなタイプでもない。
淡々の返すあいつの答えにそのうち納得して、ああ、元からこういう奴なのだと腑に落ちるだろうと思って。
それで同時に、諦めもつくんじゃねーかとそう思った。
そういうのが向くようなタイプの人種じゃないんだって。

だが、自分が多大なる勘違いをしていたらしい。
そう理解したのはシーフォンが萎れて帰ってきてからのことだった。
そこから1週間ほど今日まで、本気でアベリオンがスルーし始めたときにこれはマジでどうにかしなきゃまずいと思ったのだ。
シーフォンがひとりで諦めて、アベリオンはそのうち元の態度に戻って、それで3人も元通りで笑い話になるはずだった。
けれど、どこで計算が狂ったかそう上手くはいっちゃくれなかったのだ。
俺からするとアベリオンは未だによくわからないことが多い。
これだってそうだ、そんな素振りはどこにあったかと悩む。
ネルはアベリオンなんで色々と駄々漏れだよ、なんて抜かすけど共感できた試しがない。

今だって、この飄々とした態度じゃ冗談でしたあ、とも抜かし兼ねなくてわからない。
ただ、俺だってそこまで酷いやつじゃない。
それじゃさすがに、あいつが可哀想だとそう思う。


「真面目に答えろよ、」
「んー、なに?」


不器用だ、だのよく言われっけど上手くできるだろうか。
俺を簡単に見透かす上に、人を騙くらかすのが得意なこいつにどこまで通じるかもわかんねえ。
けど、しょうがねえから、やってやるか、とそう思う。


「……俺も好きだっつったらどうする」
「は?」
「シーフォンのことだよ、お前には渡せねえ」


棒読みな演技もいいとこだ。
せめて名前伏せてチュナとか思い浮かべりゃもう少しはマシになっただろうか。
それでも、それでもアベリオンは上手く騙されたらしい。
手に持っていたグラスに力が入ったんだろう。
カシャン、と音を立ててガラスの破片へと化した。
喧嘩でマジ切れしたときとさほど変わらない目が俺を真っ直ぐに睨む。
ははは、マジじゃねーかよ、笑えねんだけど。
つーか握力どんだけだよ、お前体力測定じゃ30もいってなかったじゃねえか。


「なあ、お前マジで言ってんの?」
「マジなわけねーじゃん」
「面貸……は?」
「嫉妬心むき出しかよ、やっぱさっさと言えそんだけ好きとか引く、女にでも思えねえって」
「…………うっわ、なに、試したの?パリスのくせに?」


やっと気が付いたらしい。
どんだけ余裕ねえんだよお前。
だったら無駄に距離置こうとなんてしなきゃいいのに。
嫌われんのが怖い、なんて抜かすタイプでもなさそうに見えるのは俺だけか。


「今、電話しろよ」
「え、……はあ!?今言えっつーの!?」
「いや、さすがにそこまで鬼畜じゃねえよ、明日休みだろ、呼び出すか家押しかけて言え」
「来週の週末じゃダメ?」
「お前なあ、……ったく、挟まれる側の気にもなれよ」
「電話しますー、すりゃあいいんだろ?」


半ばやけくそにケータイを取り出して番号を打ち込んでく。
お前、番号覚えてんの?え、引くんだけど、引いていいよなこれ。
そりゃシーフォンが電話来ないだのうだうだ言ってんのも頷けると思った。
あーあ、もうさっさとくっついちまえよ面倒くせ。
そして頼むから俺の前でだけはイチャついてくれるな、本気で縁切ってやる。


「え、……嘘、かかってきた。」
「は?」
「…………」
「さっさと出ろよ!」
「……もしもし……明日?や、空いてるけど……ケーキ屋?ちょ、ちょっと待った、食いたいなら土産に持ってくから……は?お前が奢るの?……そんなの忘れて、っ!?きれ、あー!切りやがったあのばか!」
「ばかはお前だ!さっさとかけ直すか今すぐその店のケーキ買ってあいつんち行けよ」
「えっと、ああ、おう、これ会計分、そんで……ああ!」
「あー…落ち着けって」


財布から金出して置いて財布そのままに席立ちかけて。
今度は財布持ったけど、椅子の背にコートかけたままで。
うろたえ過ぎて見てらんねえ。

ちょうどよく食後のデザートです、なんて店員の暢気な声が響いた。
糖分って確か頭の回転多少はマシにするよな?
流し込んでから行けば?と勧めてやって本当に流し込んでからダッシュで店を飛び出したアベリオンを見て呆れる。
あーあ、あのばかケータイ忘れてんだけど。



糖分足りてない所為だから
(そんな言い訳すら通用しねえ慌てっぷり)

title by 確かに恋だった




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