「わたし思うんだけど、最近シーフォン君元気ないよね?」
「……や、別に普通だけど」
「ね、こういうときは甘いもの食べに行こう!」
「は?ちょ、話聞い「駅中の喫茶店で今フェアやっててね、パフェがなんと半額なんだよ、これって行かなきゃ損だと思わない!?」


がっしりと肩を掴んで、拒否する言葉を言わせずに無理やり誘っちゃう。
我ながら結構強引だなあ、とは思う。
けど、生半可に誘ってもシーフォン君ぜったい付き合ってくれないし。
こうやってちょっと無理に誘っても、ため息ひとつで許してくれるし、次だってなんだかんだで付き合ってくれる。
嫌そうな顔は少しするけど、そこまで嫌がってないんじゃないかなあ、なんて私はちょっと調子に乗りたくなる。

でも、今日はちゃんとした用事だってあるわけだよ。(もちろんパフェが食べたくてっていうのもあるけど。)
それを言っちゃったら来てくれなさそうだから、ちゃんと食べてるの?って聞きたくなる細い身体を引っ張って駅まで向かう。
(甘いのしょっちゅう食べてるのに私より細いかもしれない、と思ってちょっといつもより力が入っちゃったのは秘密だ)


「ここのパフェってやっぱり美味しいわー、ね、そう思わない?」
「まあ、美味いとは思うけど、」
「あのさ、やっぱりなんていうか最近ちょっと元気ないよね?なんか甘いの食べてても幸せそうじゃないし、スプーン進んでないし」


私が今日彼を誘った最大の理由は、この元気のなさだったりする。
なんとなーく原因はわかるし、できれば微力ながらどうにかしたいと思うんだ。

いつだってケーキとかパフェとかを食べるとシーフォン君は少し嬉しそうな顔をする。
いつもの機嫌のあんまり良くなさそうな顔が崩れて、頬がちょこっとだけ緩む。
は、としてすぐに戻っちゃうんだけど、私がシーフォン君を誘うのはそれが目当てだったりもする。
思わずニヤニヤしちゃうと怒られるんだけど、でもだってしょうがないよ、可愛いんだもん。

甘いものを食べて、いっしょに行った子の嬉しそうな顔を見るのが一番癒される。
なんていうか自分のエゴなんだけどね。
シーフォン君のいつもみたいに嬉しそうな顔がみたいんだ。
それにアベリオンがあからさまに元気ないのも私としてはちょっと気になるし。
ふたりには仲良くしていてほしいから、結構見てて微笑ましいし。
男の子の友情ってなんかよくない?


「なんかあった?私でよかったらなんでも聞くよ!」
「や……まあ、なんもない……ってわけでもねえけど、」
「やっぱアベリオン?」
「なんでそこであいつの名前が出んだよ」
「だってふたり最近話してるとこ見ないし、もしかしてアベリオンのこと嫌いになっちゃった?」


名前出したのは失敗だったかな、と思ったけどもう強引に進めちゃう。
そうでもしないと何にも喋ってくれなさそうだし。
きっとシーフォン君って一人で溜め込んじゃう気がするから。

放っておいてもアベリオンみたいに頼ってくれたらいいんだけど……
シーフォン君ってどこか遠慮してるみたいなとこあるし。
そりゃ10年来の幼馴染と比べるのもどうかと思うけど、でもそれくらい溶け込んじゃってるから、つい、ね。
ずっとあからさまに待ってるのも言い出しづらいかな、と思ってパフェを頬張りながら少し待つ。

これで嫌いだ、って言われちゃったらどうしよう。
だって最近のふたりはほんとになんかがおかしいんだもん。
私よりはパリスのが詳しいんだろうし、外から突っ込むのもどうなんだろうっても思うけど、だからって放っておけなくて。

私から見るとシーフォン君がアベリオンを避けてるようにも見えるんだ。
だって授業中とか最近アベリオン、当てられても答えられないくらい窓からずっとシーフォン君を眺めてるから。
私たちの教室の窓際の席からは屋上が見えるって、ぼうっと窓の外を眺めるアベリオンを見て気が付いた。
最初は空でも眺めてるのかと思ったんだけどさ。


「別に、嫌いになるほど最初から好きじゃねえし、あんなの」
「ふふ、そっかそっか、ならいいんだ」
「なんでお前が嬉しそうなんだよ……大体、嫌いになんならあっちじゃねえの、避け始めたのあっちだし」


む、としてシーフォン君がそんなことを言う。
私なんか聞き違えたかな、とも思った。
アベリオンがシーフォン君を避ける?
あんなにアベリオンずっとシーフォン君のことを気にかけてるのに?
昨日だって自分はあまり好きじゃないはずの苺ミルクの飴も持ってたのに。
たまたまかはわからないけど……
それって確かシーフォン君が気に入ってるのだと思うんだよね。


「ねえ、シーフォン君って苺味結構好きじゃない?」
「好きだけど、なんで今それ」
「アベリオンって確かそんなに好きじゃないはずなんだよね、苺の香料って苦手なんだって、苺は好きらしいけど」
「は?だってあいついっつも持ってんじゃん」


……ああ、どうしよう、なんだかたどり着いたらイケナイ答えに私だけ辿りついちゃった気が……
そんなに面倒見のいい奴だったかな、なんてずーっと思ってた。
けど、これって単にシーフォン君が気に入ってたからじゃないのかな。

いつもだとは思わなかったんだよ、たまに持ってるくらいかなあって。
え、ぜんぶ餌付け用ってことだよね、言い方ちょっとアレだけど、うん。
窓から眺めてんのだってそうじゃない?

え、アベリオンさんまじですか、でも結構まじじゃないのかな、これ。
と、とりあえずフォローしてやんなきゃダメだよね。
嫌われてるとか、なんかシーフォン君に勘違いされちゃってるし!


「とにかく!私ね、アベリオンがシーフォン君を嫌いになることはないと思うよ」
「おい、苺の件どこいった」
「あれは、…たぶんシーフォン君用だと思うんだよね、餌付け的な」
「は?」


シーフォン君が慌てたようにスプーンをテーブルに落とした。
ああ、や、やっぱり言わないほうがよかったかな……?
どうしよう私フォローし切れてない!


「……仮に嫌いじゃねーならなんで避けんだよ、つーか気持ち悪いみたいなこと言ってたし」
「言葉のあやじゃないかな、ほら、あいつ言葉足りないこと多くない?」
「まあ、確かに多い気もすっけど、」


少し悩み出したシーフォン君を見てほっとする。
この調子でぽんぽん聞かれたら私からうっかり言っちゃいそうだもん。
だってアベリオンたぶんシーフォン君のことすっごく好きだからって。


「明日にでもさ、アベリオンとちゃんと話してみたらどうかな?」
「……そうやってパリスに言われてこの前悪化したばっかなんだけど」
「え、そうなの?……ちなみにアベリオンなんて言ってたか聞いてもいい?」


促せばシーフォン君はぼそぼそと男に照れられても殴りたくなるのが普通だとか。
最近執着しすぎてただの、上着貸しといて直接返すな、だとか。
まあなんとも誤解したくもなる内容を連発していたことを教えてくれた。

ああ、アベリオンって面倒くさいなあ、もう!
シーフォン君が殴られてないってことは、彼だとそう思えないから自分が嫌。
執着しすぎて好きになっちゃってるから距離置いてどうにかしたい。
直接返されて話したらまた普通に構っちゃいそうだから勘弁。
そんなところなんだろうと、大体読めちゃうから困る。

好きってのがバレてキモッ!って一刀両断されるの怖かったんだろうなあ。
だから自分に向く好意にだけは鈍いシーフォン君に、ギリギリで伝わらない言葉を選んで告げて距離を置かせたんだ。
ちょっとそれはずるすぎるんじゃないかなあ、しかも優しくしちゃってさ!
それを計算じゃなくて天然でやるからタチ悪いよね。

でもこんな振り回されてばっかりじゃシーフォン君が可哀想だ。
ちょっと今回ばかりは振り回しちゃったらどうだろう。
それで仲直りもできるようにすればいいんだよね、できれば進展も。


「あのね、アベリオンに好きって言っちゃったらどうかな」
「はあ!?なんでそうなんだよ!?」
「ちょ、シーフォン君落ち着いて!」
「…っ、おまえが変なこといきなり言い出すから!」
「そんな危ない道を突っ走れなんていわないよ?嘘っていうかからかう感じでいいから、そしたらたぶん面白いアベリオンが見れると思うし、仲直りもできると思うの、ぜったい!」


結構無理やりな作戦な気もするけど、どうにかしてシーフォン君を乗せないと。
ほら、やっぱり幼馴染の初恋だし…ね、応援しないといけないし!
でもなんだかちょっと複雑だ。
いや、ね?ほら、いつか可愛い女の子に恋して、あわよくば私もその子と仲良くなれたらいいなあ、なんて思ってたんだけど。


「なんで僕がんなこと言わなきゃねんねえの」
「見たくない?慌てふためくアベリオン!」
「そりゃ……まあ、面白そうだけど、絶対悪化して終わるだろ」
「大丈夫!」
「どっから来んだよその自信!」
「ネルお姉さんにまっかせなさいって!」
「あああ、根拠なんもねえじゃん!」


そう言いながらもシーフォン君はきっと言ってみるんだろうと思う。
呆れたようにため息をついてちょっと睨んでるけど、溶けてきたパフェを頬張り出してるし。
ちょっとは悩んでたのもマシになったかな?
考えるのなんてばかばかしいって思ってくれればとりあえず今日は大成功だ。

確かにアベリオン繋がりで甘いの好きな可愛い子と仲良くなれたけど……
男の子だとは思わなかったよ、私。
偏見はいけないよね。
それにアベリオンとシーフォン君なら、まだ……いや、結構そんなに気持ち悪くもないかもしれない。
どうせふたりたまにイチャついてるし、痴話喧嘩みたいのばっかりしてるし。

とりあえず、嘘でもそう言えるってことは、満更でもないってことだよ。
こんだけ悩むくらいには、アベリオンのこと気にしてるみたいだし。
シーフォン君って押しに弱そうだから、動揺したキレたアベリオンが押しちゃえばくっついちゃうそうな気もする。
喧嘩してぎくしゃくしてるよりは、もうくっついちゃったほうがずっとマシだと思う。
……あれ、私なんか変なのに目覚めそう、ど、どうしよう…!


「……私パフェ追加してもいい?」
「は、お前まだ食べんの、いい加減太るんじゃねえ?」
「ちょっと、殴るよ」
「ごめんなさい嘘です冗談です気にせず食べてクダサイ」




糖分足りてない所為だから
(アベリオンとシーフォン君なら寧ろいいかも、とかちょっぴり思っちゃったのはきっとそうだと思いたい!)

title by 確かに恋だった




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