同居人と違ってすばらしく寝起きの良い……というよりかは常に眠りの浅い俺は、ずしりと感じた重みで目を覚ました。


「なあ、これ何の箱?」


目に滲みる逆光の中で朱がふわりと揺れ、続けざまに可愛くラッピングされた見覚えのある小さな箱が目に入って表情が引き攣る。
寝起きの襲撃ほど、こちらが無防備になっていることはないため表情が素で崩れた。
あー…まだ1週間も経ってないのにもう見つかったのかよ。
さいあくだ、と心中で呟きながら数日前のことを思い浮かべる。


世の中はバレンタインデーだのと騒いでいる中、ネルから貰ったチョコ(義理)を片手にひとり、ホルムの裏町のを歩いていた。

目当ては価値を知らずに並べてある魔道書や、昔の御伽噺の類の書物だ。
流通とは恐ろしいもので、この町の遺跡から出土したものが何故か大河交易でホルムに戻ってくる。
大方、"古代趣味"なんてブームに乗ってコレクションした貴族が飽きて売り払ってるおかげなんだろうけど。
ゼロが3桁は間違っているような価値のある書だって雑多に並んでいるときはガッツポーズをしたい気分になる。

けれど、今日は露店すらもバレンタイン一色。
並ぶのは菓子やらアクセサリーやらばかり。
本命が欲しい、なんてことを僅かに思ったりもしなくない相手からもらえる気がはさらさらしない。
気分は急降下していく。

じゃあ逆に自分で買ってあいつに渡すか、ってそれも少しは考えた。
でも相手があれじゃ、チョコなんて渡す気になれないだろ。
絶対揶揄してくるに決まってる。
そんなに僕のこと好きなのお前?うぷぷ、笑えるー!とか。

……想像しただけで最高にむかつく。
もうあいつ押し倒して泣かせまくるか、一遍焼き払っても全然いいと思わない?
いっそそれに開き直って、『好きだ愛し……』だめ、無理、考えただけで吐きそう。
そんなの抜かす俺が気持ち悪すぎる。

ああ、でもアクセサリーなら欲しいかも。
別にあいつのために買うとかそんなんじゃなく、自分のために欲しい。
魔法耐性のついたの売ってたりしないかな。

一応見て回ってなんか掘り出しものあればラッキーってね。
まあ、そうそうあるもんじゃないけど、なんて思いつつ露店を流し見れば、


「…………え、」


かなりの魔力が込められた指輪を見つけてひどく戸惑った、寧ろ引いた。
だって、これ、……まじで?
魅入って手に取れば、黒く濃い魔力が流れ込んでくるのを感じた。
魔力付与の点からしたら、秘石の類より下手したら優秀な気がする。
なんでこんなの普通に売られてんだよ、ありえないって。

これ買う、絶対買う、借金してもほしい。
嫌な感じもあまりしないし、たぶん呪われないだろうし。
いや、これ身につけて呪われるならそれでもいい、外せなくなるだけだろどうせ!


「兄ちゃん、それ気に入ったのかい?結構いいのらしいからね、ひとつ150000Gだよ」


結構いいのらしいとか……結構どころの話じゃないです、国宝レベルですけど。
よく神殿に見つかって引き取られなかったものだと感心する。

夜の闇のように深い色をした黒の宝石を、ふたつの真っ赤なルビーが囲んだ銀の指輪。
真ん中のその黒石からとてつもない魔力を感じる。
それも、下手な術者だと恐らく呑まれてしまうであろうくらいの。
自分なら大丈夫だろう、と言うのは確定的だからいいんだけど。


「やっぱり少し高すぎるかい?かなりいい代物だと思うんだけど、何故かさっぱり売れなくてねえ、二つ対になってるんだ、買ってくれるならふたつで200000Gにしてもいいよ」


考え込みすぎて黙りを貫いていたのが功を奏したのか、まさかの値下げ。
いや、もう買う気でいたんだけれど、まあ下げてくれるならそりゃ嬉しい。

対、と言ってオジサンが取り出したのは、真っ赤なルビーを黒石がふたつ囲んだ同じく銀細工のもの。
こっちのほうがなんかしっくり来る気がする。
さっきのほうより何となく。


「じゃあどっちももらうよ、ありがとう」


そう答えて現金を叩きつけてから、俺は迷うハメになる。
これ、魔力に呑まずに使える相手なんて、一人くらいしか思いつかない。
(テレージャも考えたけどたぶん神術と相性悪いと思うんだ。エンダ?
黙って素手で殴らせたほう強いのに?それに下手したら食べちゃうよこれ)
こんな代物を平然と手にできるのは、今頃死ね!バレンタインデー!とかほざいているのが余裕で想像付くあいつくらいだ。

結局こうなるんだね。
俺がシーフォンにプレゼント………大分痛いけれどまあ、百歩譲ってそれはいい。
魔道書は自分の分野外だったりすると普通にあげたりはしてるし。

問題はこの時期とプレゼントの中身だ、バレンタインに?指輪を?
チョコレートだってひどく躊躇ってたのに一気にレベルアップしすぎだ。
包みもなんか可愛いんだけど、リボンいらないしシンプルでいいです。

……渡せたら渡そう。
バレンタイン落ち着いてからだっていいだろうし。
露店でいいのセットで見つけたからやる、なんて何気なくやればいい。

そして話は冒頭に戻るわけだ。



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