(※初っ端からエロ注意)
「ふ……んぅ、ぁっ、や…ッ」
漆黒の帳も降りて皆が寝静まるような深い夜。
ひばり亭の一室には出したくも聞きたくもない自分の嬌声が響いていた。
ここは防音設備なんてものは整っているわけもない安い宿だ。
もし隣に聞こえていたら、僕の声だと誰かがわかったら。
そう考えただけで拒んで逃げ出してしまいたいと思うのに、それでも受け入れている自分は馬鹿でしかない。
よりによって嫌いで嫌いで堪らないこいつと。
僕の欲しいものを簡単に手に入れる憎くて憎くてたまらないこいつと。
しかも相手は男でさらに僕は蹂躙される側で?
ありえねえだろ何してんだホントばっかじゃねえの。
確かにそう思う、思ってるのに。
「もっかい、イきなよ、」
「ひ、!んっ…ふぁ、や…だ、そこ、やめ、ああぅ――ッ」
白濁は飛び散ることなく滲み出るように溢れるだけ。
射精感もなくただ深く痺れるような感覚に支配されて、それがじわじわと全身へと広がっていく。
この快楽の波に呑まれたまま意識を飛ばせれば、悪夢も見ずに済む。
瞼を閉じてまどろみに身を任せようとした瞬間、また強烈な快楽が訪れ意識を引き戻された。
中がまだ痙攣しているにも関わらず、連続して甘い痺れを感じる一点を擦られて脳が溶けてしまいそうだと思った。
許容範囲を越えた快楽に涙で視界が揺らぐ。
この上にある快楽なんて知りたくなんか、ねえのに。
このくそホモ野郎気持ち良いなんて通り越してんだよ何の拷問だ死ね!
悪態を全力で投げつけてやりたい、と心底思うも、口を開けば喘ぎに変わるから心に留めるしかない。
でも少しでも目の前の快楽から意識を逸らさなければ、と僕は必死に罵詈雑言を紡ぐ。
そうでもしなけりゃ、どこまでもどこまでも落ちて狂う気がした。
長いんだよしつけえんだよとっととくたばれ遅漏野郎!
だって何回目だこれ…くわえられて二度、挿れられる前にも一度。
それで、挿れられてから空に近いので二度目。
……これがイくの五度目かよ…!ふざけんな死ね枯れ果てて死ね!
いつもは前儀もそこそこに無理に慣らして突っ込まれる。
喧嘩の延長線上にあるような行為だ、少なくとも最初は大体痛い思いをさせられる。
(それでもこの戯れに付き合ってやってんのはその後の、強烈な快楽にハマってしまったせいだ畜生)
けれど今日はそれもなく、暴力染みた快楽だけが与えられる。
「っ、あんま声出すなって、聞こえたら不味い…ってわかってるだろ」
「だったら、ぅぁ、もう!…ん、んんーっ!」
「まだやめないから、さ、苦しいだろうけど…我慢、してくれる?」
くそ、まじで今日のこいつおかしいだろ……!
漏れ出てしまう声を塞き止めるべく口を手で押さえられて、息をするのも困難になる。
抗議すべく無理に振り返り涙目のまま睨む。
やはりそれは無駄で、返された狂気染みた微笑みにぞくりとして煽られただけに終わった。
窓から漏れる月明かりに照らされたこの状況にはとても似合わない、ひどく綺麗なもの。
密かに照らされるぼんやりとした闇の中で不気味に、赤だけが煌く。
昼間の透きとおったそれと違い鮮血のような暗さを湛えた赤が、僕を射抜くように見下ろす。
腹立たしさに相俟って、確かに惹かれている自分がいることに気が付いてしまい、即座に否定する。
僕は別に、お前じゃなくたっていい。
言い聞かせるように、刷り込むように、呪詛にも似た言葉を心の中で呟く。
道を踏み外した僕に許された、一時の逃避が欲しいだけだ。
だから痛みでも苦しみでもなんでもいい。
勿論快楽のがいいけど、強烈な何かを与えてくれれば誰でもいい。
全部を手離して流されるままになれば、その瞬間だけはすべてを忘れてしまえる。
犯した罪も、纏わり付く悪夢も、死も、生も、何もかも。
ただそれだけの話だ。
だから僕は別にお前じゃなくたってよくて、お前だってそうだろ?
今だけは逃げていられる。
その甘ったるさから抜け出せなくて、仕方なくお前の求めに流されてやってるだけだ。
必死であまりに強烈なそれから意識を反らしてるのに、またさらに強制的に上り詰めさせられる。
息苦しくて気持ち良くてぞくぞくして涙が止め処なく溢れる。
やだこれはだめだやめろばか、まじでおかしくなる…!
「何考えてんの、おまえ」
上り詰める寸前で動きが止められて、びくり、と大きく身体が震えた。
霧散して消えた快楽のせいか、それともあまりに冷たい眼差しをした赤のせいか。
……どちらにしたっても考えたくない。
尋ねるというより問い詰めるような雰囲気を出す割りに、こいつは僕の口を塞いだまま。
とても此方に答えさせる気なんてなさそうに映る。
中途半端なところで止められたせいで、奥が甘く疼いてしょうがない。
あとほんの少しだったのに。
快楽に溶けた完全に思考では先を求めるばかり。
はは、もう頭はまともになんて回りやしねえ。
間一髪で助かったと思うのが正しいはずだ。
でも熱く脈打つそれで壊して欲しいとも思う。
同時に壊れるのが、こいつに壊されるのだけは嫌でたまらなくて……ああ矛盾する。
「今もだ、ねえ、答えなよ?」
続きを求めて腰が勝手にいやらしく動くのを制止するように、向きを変え抱き寄せられた。
その瞬間に深く刺さったせいで、また軽い絶頂を迎える。
白濁と共に快楽を吐き出すことは叶わなくて、でも、だからこそまだ足りなくて、もっと欲しい。
それでもこいつは僕を抱きすくめたまま、全く動こうとしない。
奥まで届いている熱が焦れったくてたまらなかった。
口元の手が離されて、顎を掴まれ無理に後ろを向かされる。
焦点を合わせるのに苦労しながらも真っ直ぐな赤を見つめる。
闇を切り裂く燃え上がる炎のように揺らめいた赤に見惚れて囚われる。
……もう、それでもいい気がした。
「…おまえが、ほしい、んだよ、」
「……っ…」
「もっとぼくをこわせ、そんでなにもかも、ぜーんぶ、わすれさせろ」
顎を抑えていた手を両手で支え口元へと持っていく。
べろり、と掌を舐めてからアベリオンを見上げて笑う。
動揺を隠し切れていないその表情にたまらなく気分が高揚する。
どうしようもないとわかっていたってそれでいい、今はそれで、なあ、だから。
続きを僕によこせ、ぶっ壊したいならそうすりゃいい。
ねだるようにもう一度舌先で掌を舐めてから小さくキスを落とした。
掌なら懇願
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