甘い死に歌
甘い死に歌6///
※名前変換なし
※チョコラータ成り代わり(女)
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立派で美しい装飾のなされた柱が幾本も並ぶ廊下でのことだった。かつんかつんと足音を立てながら悠々と突き進むチョコラータの前に立ちふさがるように銀髪が煌めいていた。
「一体誰が、あなたにここに来ていいと言いましたか。」
「強いて言うなら、オレ自身かな?」
腕を組んだまま、褐色の肌に白い口紅がよく映える男、ティッツァーノがチョコラータに鋭く言った。当然、彼の隣には相棒であるスクアーロが柱に背をあずけてこちらを、まさに名前通りの鋭さで睨みつけている。
どうだ今の、かっこいいセリフだろう。とおちゃらけるチョコラータにおう、と返事をしたのは彼女の相棒であるセッコだけであったが。
「……今すぐ、お帰りください。招集命令もないのにあなたにこられては迷惑です。」
「冷たいことを言うなよティッツァーノ。用事があって来たんだぜ?」
「用事?あなたの言う用事とは、組織に打撃を与えることなんですか。」
「なぁにを怒ってるんだ。取り替えの効くような奴しか殺さなかったろ!」
「そういう問題じゃあねーんだっつーの…。」
チョコラータとセッコが歩いてきた方にはホールがひとつある。そちらから未だに聞こえる叫び声から、彼女たちが何をしてきたかは一目瞭然であった。
仲のいいことに同じタイミングでため息をついたティッツァーノとスクアーロに、チョコラータはくつくつと喉の奥で笑う。
「いいじゃねぇか。ボスはいいって言ったんだから。」
「あの人はあなたに甘いですからね。」
「信頼されてるんだろ。」
「あなたが言いますか。」
売り言葉に買い言葉で、その会話を横で聴いてるスクアーロとセッコは何となく目を合わせて同じように首をかしげた。ぴりぴりとした空気を醸しているチョコラータとティッツァーノはそんなそれぞれの相方を目にして、目元を緩めたが。
「……そうだ、あなたに検死してもらいたいものがあるんでした。」
緩んだ空気を締め直したのはティッツァーノの方だった。
思い出した要件に、既に遠くから聞こえる阿鼻叫喚の声の数々は耳をすり抜ける。どうしたって今更なことより、少しでも有意義に時間を使うべきだと彼らは判断した。
「おいおい、たったいま帰れつったのはどこのどいつだ。」
ふっと苦笑するチョコラータ。ティッツァーノは悪びれもなくさぁ、と肩を軽くすくめた。
「これくらいしか役に立つ事ないんですから、頼みますよ。」
「既に死んでるやつほどつまらん仕事もねぇんだけどなぁ。」
「仕事ですから。頼みますよ、先生。」
「仕方ねぇ。代わりに、この間のは頼んだぜ。」
「無茶言いますよねあなたも。」
「大体、暗殺チームなんかに肩入れするなよなぁ、あんたも。あんなののどこが面白いって言うんだ? ティッツァの仕事、増えるだろーがよぉ。」
たまらず、口を挟んだのはスクアーロであった。なんせ、ティッツァーノの仕事が増えるということは、彼の大切な相棒とのんびりと過ごす時間を奪われるにほかならない。むっとした表情でそう言ったスクアーロに、ティッツァーノは一瞬困ったように笑った。
そんな二人にチョコラータはこいつらもデキてたかと、ただそれだけである。
「いいじゃねぇか、これくらい。代わりにこういうのは俺がやってやってんだから。」
「その点だけは感謝してますよ。いちいち医者を探す手間が省けます。」
遠まわしに、それ以外に感謝するところがないときっぱりと言ってのけたティッツァーノにチョコラータははいはいと気の抜けた返事をした。
「お抱え医師にもう少し優しくしてくれていいんだぜ?」
「それこそ無茶言わないでください。」
「態度見直して来い。」
間髪入れない返答に、チョコラータは笑いながらセッコを呼ぶ。
「オレの部屋に運んであるのか。」
「あなたの部屋じゃあないですよ、あそこ。」
「オレしか使わねぇんだから、オレのだろ?」
足元に擦り寄ってきたセッコの頭を緩く撫でながら、一歩足を出した。彼女に割り当てられていると言っては、ティッツァーノを始めとしたパッショーネの多くが反対するだろう、部屋に向かうためだ。
そこは本部としても機能するこの建物にある医務室だ。奥には簡単な手術室も設置されており、有事の際には非常によく使われる。が、最近はもはやチョコラータの根城であった。お陰で、昔ほど安易にその部屋を使うものはいなくなったが、それについてはおいておこう。今更である。
「資料も向こうに置いておきました。今日中に報告をあげてください。」
「あー、はいはい。」
じゃあまた後でな、と振り向きもせずに手を振った女の背中をティッツァーノとスクアーロは見つめていた。角を曲がって消えていった白い服に、はぁとため息をつきながら。
「……あの人にも困ったものです。」
「気まぐれがすぎんだよなぁ。」
それから、彼らも渋々と反対へと歩いていく。チョコラータとセッコが遊んでいったであろう部屋の様子を確認しなければならない。おそらく、人としておよそ機能しないものが転がっているんだろう。
そこまで想像して、二人はまた、ため息をつくのだった。
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▼蛇足:
ティッツァーノとスクアーロといっしょ。チョコ先生シリーズでの親衛隊は、参謀ドッピオ、第二参謀ティッツァーノを主軸に、スクアーロとカルネ。ここに一応、名前だけはチョコラータとセッコと並んでいる感じです。
ドッピオはボスから直接あれこれ命令されるので結構てんてこまい。ティッツァーノとカルネがそれの補佐。スクアーロはティッツァーノのサポート。先生たちは好き勝手遊びまわってる感じ。相変わらずひどい先生たちだ(笑)。
中枢にしては若いメンバーで、お互いに言葉はずけずけと投げ合ってるものの、そこそこうまくいってるんだと思います。ちょっと仕事量は多めだけど。
カルネとドッピオはティッツァーノとチョコラータの口喧嘩を遠くから見ながら、またやってるよあの二人…。と思ってるんでしょうね。スクアーロとセッコは俺らの相棒、本当頭回るよなぁとほんのり意気投合とかね。
mae ◎ tugi