甘い死に歌
甘い死に歌4///

※名前変換なし
※チョコラータ成り代わり(女)

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 チョコラータがリゾットの足に遠慮なく座りながら、机に頬杖をつく。なんだかんだでプロポーションのいい女がする格好としては、なかなかいい眺めであるが……いかんせん、相手は冷酷無比なギャングたちさえも唾棄するような下衆の中の下衆である。
 もし神とやらがいるのなら、なぜこんな奴にいい体を与えてしまったのかと問い詰めたい心持ちで男たちはそのニヤケ顔を見返した。

「あー、それで。まず、基本報酬なんだが……パッショーネからの経費が降りない。まぁ当然だな。当面はオレが別から出すが、近々経理とお話し合いしてくるから問題ないな。」
「でもさぁ、ぶっちゃけ、ほかのチームより少ないぜ?」
「すぐにゃ無理だ。伝統的にこのチームは薄給だからなぁ!」
「いやな伝統だなぁおい。」

 不意に話し始めた内容に、各々が反応を返す。
 だは、間違ってはいけない。彼らは薄給を嘆いてはいるが、それが全てではないのだ。むしろ報酬が不当であることは、全体から見れば極めて些細な部分であった。というよりは、最も目に見える形での侮蔑が報酬という形で現れているに過ぎなかった。だから彼らは、まず目についてわかりやすいそこからの改善を求めていたわけだが、如何せん、チョコラータには理解できない。

「俺たちは、安くない。」

 ぽつりと、ゆれる緑の髪に視線を落としていたリゾットが呟いた。めずらしく静かながらも、色を含んだ声であった。

「そりゃ命がって言いたいのか、え?」

 振り返ったチョコラータとの顔の距離はぐっと近くなる。きょろりとした緑の目と、黒に浮かぶ赤い目がばちりと交差した。リゾットの瞳。その奥底に、炎を見たチョコラータがくっと笑む。

「そりゃあてめぇらの言い分だろう。」

 リゾット・ネエロは命を重んじている。それが彼の過去からくるものなのか、それともまともな感性とやらがあればそうあるべきなのか。チョコラータにはどちらが正しいのか、さして興味もなかった。
 命は安くないと繰り返す男たちに、女は緩やかに言葉を返す。

 命ほど安いものはない。体ほど無価値なものもない。愛ほどくだらないものもない。心ほど不安定なものもない。仲間ほど不必要なものもない。生きることほど単純なことはない。

「私が価値を見るのは、死に様だけだ。」

 それ以外の生命とは、死ぬ瞬間にために存在する付属に過ぎないと女は言う。
 死のために命が存在している。死に形を与えるために肉体は存在している。死を重くするために愛が存在する。死を彩るために心が存在する。死を深めるために仲間が存在する。死ぬために、人は生きている。

 朗々と、流れるように吐き出された言葉に、さすがのアサシーノも閉口した。元から、碌でもない人としてあるまじき存在だと思っていた認識が緩やかに固まっていく。そんなものじゃない。人と呼ぶのもおぞましい。彼らの中で女はまるで、人の姿をした怪物に見えていた。

「だから、言ったろ、リゾット・ネエロ。」

 瞬きも忘れていたリゾットが緩やかに目を閉じる。女はなおも、黙ることはせずに再び口を開いた。

「私はお前たちがどんな顔で、どんな死に様を晒してくれるかを見たいんだ。そして私に、幸福を感じさせておくれ。」
「……あんたと手を組んだのが間違いだと、たったいま後悔した。」

 実に嬉しそうに、めずらしく純粋な笑みを浮かべた女にリゾットが顔をしかめる。これがもっと、内容が甘い話であればこの場の誰もが彼女に微笑みを返したことだろう。
 だが、残念ながらここに彼女に共感する人間はいない。そもそも、非常に遠まわしに自分のために死ねと言われたようなものである。
 きっと一生、分かり合えないなと、誰もがそう思っていた。

「チョコ先生、あんたが俺たちがどうなろうとどう思われてようとどうでもいいっていうのはわかった。」
「いいや、どうでもいいとは思ってねぇさ。言ったろ、死ぬときは私に撮させてくれって。」
「そこまでは言ってなかったろ、今!なんだようつすって!」
「そのまんまさ。なんだったら今度見せてやろうか?私のコレクションを。」
「いらねぇよそんな悪趣味なの!」

 発端となったメローネが、もはや投げやりに答える。イルーゾォがつい、チョコラータの言葉に反応して吠えた。周りの面々も、心底分かり合えない相手にうんざりといった表情であったが、リーダーたるリゾットがよせと小さく言ったことで再び話が進む。

「……あー、それで、先生。俺たちからの要求は、ちゃんと聞いてたんだよな。」
「この間も言ってたな。」
「オレとリーダーとソルベで行ったときは、わかったっつってたよなぁ。」
「あぁ。」

 問題はその先である。わかったと言っただけで、本当にこのゲロ以下の存在と言っても差し支えがない女が役に立つかである。
 彼らはすっかりと期待していないし、できればこんなやつと会話もしたくないといった風だ。その様子のどこが楽しいのか面々にはわからないが、チョコラータだけはいつも通りの、笑顔である。

「今度本部まで御足労してきたやるよ。」
「本部?」
「ボスは常に姿を消してるし、幹部連中も各々の拠点に引きこもってる。ネアポリスのポルポがいい例だ。だがな、これだけの組織に拠点がないわけじゃあない。親衛隊を始めとしたオレらが会議を行なうこともある。ボスがいねーから、本部と言っていいかわからねぇとこはあるがな……そういう役割の建物はあんだよ。」
「……けどよぉ、ボスがいるわけでもないんだろ?」
「あぁ、まぁ、そのあたりは任せろ。くくく、奴ら、オレとセッコを見たらどんな顔をするかねぇ?今から楽しみだ。」

 ああ、また悪い病気だ。人の死に様だけじゃなく、嫌がることをするのがたまらなく楽しいんだ。この女、典型的ないじめっ子だ。
 現実逃避したい会話を右から左へと流しながら、段々と疲れてきた面々はそれでも聞きたいことを聞いてゆく。いつもどおりの口癖をいいながら続きを促したのはホルマジオであった。

「それが信用ならないっつってんだ。」
「わかったわかった。……まず、金についてはそれでいいな?」

 顎で机に放棄された報酬を指し示す。とりあえずは、とメローネが頷いた。だが、とプロシュートが声を上げた。

「あんたのポケットマネーってことだろ? いつまで続けられるんだよ。」
「プロシュート、私はこれでも、お前らみたいな最初から泥水すすってるような無様な野良犬と違って……優秀な医者なんだぜ?」

 相手を見下すことに余念がないチョコラータ対して、プロシュートの端正な顔に青筋が浮かんだ。ペッシが慌ててフォローしたおかげで、彼が暴言とともに手を出すことはなかったが。

「それにいつまでもオレが出すことはねぇ。あぁ、あとなんだった?待遇と地位?くだらねぇもんを欲しがるもだなぁ、全く。」
「てめぇとは違うんでね。」
「むしろ安心したよ、あんたが理解してくれなくて。」

 散々と言われてもチョコラータは肩をすくめるだけだ。どうあったって、理解しようもない。覚悟がどうのや、誇りがどうの。そんなもので腹が脹れるわけでもないだろうにと、彼女は内心呆れている。
 その様子を見て、暗殺チームの面々も呆れを返していた。人としてかけているというよりほかにない相手をみて、どこか安堵を得ていた。自分たちは、たしかに落ちるところまで落ちたが、と。

「とりあえず、そっちの方も半年くらい待っててくれ。」
「それでどうにかなるのかよ?」
「何度も言わせるなよ、プロシュートぉ。どうにかなるのを待つつもりはねぇ!向こうからどうにかしたくなるように、お話し合いをしてくると、私は言ってるんだ!」
「……そりゃつまり……。」
「半年以内に成果がでなきゃぁ、私が直々に暴れて差し上げるっつってるのさ!わかったか、馬鹿どもめ。」

 そんなのわかるわけないだろう、常識的に考えて。全員が同時に叫びたい気持ちであったが、ぐっと飲み込んだ。およそ常識とは無縁の女が相手なのだ。言うだけ無駄である、冷静になれ、大人だろう。そう、誰もが自分に言い聞かせた。
 遠まわしの大胆宣言に、胃が痛くなったリゾットはとうとう頭を抱えて俯く。それを見たソルベはあとで胃薬を持ってこようと考えた。

「…………あんたが暴れちゃだめだろー……。」

 どうにかそれだけ返したメローネに、ギアッチョが無言で頷く。もはや目の前で理不尽が息をしているようであった。
 彼らなりに、チョコラータに言いたいことはいくつもあった。だが、これまでの会話で彼らは納得した。分かり合おうなどというのが最も障害であることに。思考回路がそもそも遠すぎる。別の生き物と触れ合ってると思おう、とまで何人かはその時考えていた。

「あんたと手を組んだのは、本当に、早まったぜ……。」
「私は楽しいがね。」
「あんたはね!何してても楽しいだろうさ!」

 本日何度目ともわからない、イルーゾォの悲痛な声がアジトへと響き渡り。そして、チョコラータの実に楽しげな笑い声が聞こえるのであった。



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▼蛇足:
 チョコ先生と暗殺チームの盛大なすれ違い。一生互いが理解できないものの、チョコ先生的には貴重なサンプルである暗殺チームをみすみす逃す手はあるまいと、わりと優しめな対応。
 とりあえず今のところは、暗殺チーム自体が見下し対象にちょうどいいというのと。暗殺チームをうまく使えば、パッショーネのその他もろもろの大多数を見下す足がかりになるとも思ってもいるので、やっぱり優しめ対応。あとは暇つぶし。

 ひとえに、レア物の映像を撮るためですが、きっと思うようなのは撮れないだろうなとすでに理解してる。ただ、敢えて言うなら、後学のためといったところ。

 そう思う時点で、結構、相手を気に入っているかもわからない。

 ちなみに今のところ一番楽しみにしてるのはリーダーの死に際観察。ほかのメンバーも、どうやって、いつ、どんな顔で死ぬのか。彼女は楽しみで仕方がない。そんな感じで、ほのぼのしてます。



mae  tugi
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