甘い死に歌
甘い死に歌2///

※名前変換なし
※チョコラータ成り代わり(女)

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 不穏な顔合わせからはや数時間。勝手気ままに居座るチョコラータにどうしたものかと気まずい空気が暗殺チームのアジトには流れていた。
 リーダーであるリゾットは何となく予感していたのか、現状にため息をつくだけである。セッコはきょろきょろとアジトをせわしなく見渡していた。各々が一定の距離を置いたまま、ソファを陣取ったままのチョコラータとセッコに話しかけたのはメローネであった。

「なぁなぁ、先生。あんた、でもさぁ、よく出てこれたな。」

 ぱらぱらとこれまた不気味な写真がちらほらと混じっている書類をめくっていたチョコラータが顔を上げた。ふと、気になって手元を覗くと、胸部から股間にかけて切り開かれた男の絶叫する瞬間が撮されていた。職業柄、死体に抵抗の無いメローネが少しばかり顔をこわばらせた。

「あー、そういや、監視状態だったんだよな。」

 話を続けようとホルマジオがメローネの言わんとした続きを促した。あぁ、と合点が言ったらしいチョコラータは、そのときのことを思い返して、軽く眉間に皺を寄せた。

「ありゃあ本当に退屈だった……。医者として働く以外にゃ黙ってろと来たもんだ……。外にも出しちゃもらえねぇからなぁ、つい、監視員をやっちまったこともあったか。あぁ、あの時も文句言われたか。くくく、ひどい話だろ。」
「あ、あぁ……。」
「それで、先生、どうやって出てきたんだよ。」

 最初こそ、退屈だったという事実に嫌そうな顔をしていたが、段々と楽しかったときも思い出してきたチョコラータは、喉の奥で笑いをこぼす。楽しそうな彼女と違い、隣のセッコはソファーの上でゆらゆらと頭を揺らして話を聞いていたが、それも飽きたのか横に倒れていった。会話することを放棄してる彼は、チョコラータの腰元に擦り寄って寝息をたて始める。チョコラータがその頭をぽんぽんと軽く叩きながら寝やすいように組んでいた足を下ろした。
 余計な話を始めそうな女の様子に、適当に相槌をうったホルマジオ。メローネがそれで、と肝心のとこを問いかけた。ちらりと視線だけを寄越しながら、あぁ、とチョコラータが短く返す。

「ちょっと相談を持ちかけただけさ。」

 誰にとも、どうやってとも言わない。だが、その歪んだ口元がろくでもない相談を持ちかけたであろうことを明確に示していた。
 事実はこうである。
 監視状態でろくに”趣味”もできないチョコラータとセッコが、さっくりと監視員を殺してしまった。次の監視員もその次も。送られてくる監視員を患者と勘違いしているのではないかとまで言われたこともあったが、彼らはその言葉を待っていた。ここでチョコラーたは次の監視員を捕まえた。
 これ以上押さえつけておくなら、一世一代の大量虐殺も辞さない。なんなら本部にいってやろうか。そう遠まわしに書かれた紙を携えた監視員が送り返されてきたのだ。幸か不幸か、その哀れな監視員は死んではいなかった。だが、もはや人として生活していくには、身体のあちこちが不足していた。切り取られていたのだ。そして順次、丁寧に切り取られたパーツが本部へと送りつけられる。
 ついにやりやがったか、と本部の幾人かは頭を抱えた。やがて届く最後のパーツ。丁重にラッピングされたその箱の中身は既に想像がついており、誰が開けるかとひと悶着もあった。
 ともあれ、最後のパーツには、提案が書かれていた。こちらが少しばかり妥協してやるから、そっちもそうしろ、と。幹部の幾人かは馬鹿にしているのかと憤慨したが、チョコラータを知る人物たちはどうしたものかとため息をついた。

 結果、お互いにいくらかの妥協をすることにより、今日に至る。

 ある程度の身辺の自由を許可する代わりに大量虐殺といった面倒を起こさないことを約束させられた。代わりにこちらは、医者として手を貸してやる代わりに”処理”の役目をやらせろと約束させたのだ。チョコラータとセッコはこの程度で我慢するような性格ではなかったが、「今のところはそれでいい。」と、いうことになったのだ。

「お陰様で、裏切り者が出れば私のところに送られてくる。アレは見せしめがほとんどだからなぁ、好きなようにやれて楽しいもんだ。」
「それが……その写真かよ。」
「良く撮れてるだろう?」

 まぁ、この程度じゃ足りないが。小声で付け足された内容を聞かなかったことにして、ホルマジオとメローネは渇いた笑いを零した。二人共、チョコラータという人物がこれまでに何をしてきたかくらいは把握している。その扱いについても、奥底に封印されていたのだ。それがここ最近、表舞台に近寄ってきていた。そして昨日の今日。とうとう、地表へと顔を出した。実際の人柄についてはソルベとジェラートの持っていた情報通りである。
 だが、一方、その待遇についてはどうだ。予想通りでありながら、予想外であった。
 これで大人しくしているというのだから、困ったものだ。ギャングとして最低限の掟さえ守りはしない。事実、この女はギャングの一員ではないのだからと言ってしまえばそれまでだが、そうでなくとも人としてのルールもかなぐり捨てている。話を聞いていた面々はこれでよく捕まらないものだと、感心にも似た思いを抱いていた。

「ボスはあんたを幹部にはしなかった。そのあんたを幹部まがいとして配置したのはなぜだ?」
「あいつがオレを出さなかったのは首輪がないからだ。」

 差し出されたカップを受け取って、のんびりと飲み込んだチョコラータにリゾットはその黒い目を向けている。組織内では同様に不当な扱いを受けていると自負しているし、人から尊敬されるような仕事をしていない自覚はあった。だが、目の前の女はたった一人で、それをも越える行いを平然と行いながら、それ以上の待遇を受けている。リゾットは本心、納得のいかない思いであった。

 本当に、なぜこの女が自由なのか。いや、語弊がある。制限がついているのだから、正真正銘の自由ではない。だが、少なくとも、自分たちよりは奔放に振舞っている。その理由が知りたかったのだ。

「お前らと違って、矜持も掟も法も人道も倫理も俺には枷にならない。ギャングにゃむいちゃいねぇ。」
「あぁ。」
「もちろん、今も、変わっちゃいねぇが。オレもそれなりの楽しみを見つけたんだよ。だからそれを教えてやったんだ。」
「楽しみ?」
「患者はほいほい手に入るし、合法的に殺せるだろぉ? 仮にもボスの親衛隊となりゃあ、やつらは俺に見下されるし、まぁまぁ居心地はいい! ……ただそれだけだ。」

 つまり、この女は。自分の欲求を満たすのに手っ取り早いから、しばらくそれに甘んじると言ってのけたわけだ。あらゆる拘束を意ともしない怪物が唯一従うのは、怪物自身の欲求ただ一つ。それがここにあるからと言われて、おそらく、ボスは信用したのだ。
 それが単なる信用でもなければ、人としてのそれでもないのは言うまでもない。だが、この化物が非常に”素直”であることは間違っていない。
 それでか。リゾットが呆れたような目で納得に頷いた。チョコラータは、その視線に気がついていたが気に留めた様子もなかった。

「だからオレはやつに信用されちゃいねぇ。てめぇらの上になれたのは、俺もお前もそうだからだ。」
「気分の悪い話だな。」
「お前らにとっちゃあな!」

 一番どうしようもない女が目の前で笑っている。奇妙なラインを引いた顔で、凶悪そうに。こんな怪物をひっそりと持ち続けている組織のボスという存在に言い知れぬ驚異を感じる。最も、この一点においてのみではあるが。
 いいだけ話して満足したのか、チョコラータが立ち上がった。ころんと膝から落とされたセッコが、地面へと落ちた。頭をぶつけるより先に、どぽんと水音をたてて床に沈んだその姿に面々は一瞬、目を丸くした。

「まぁ、なんだ、そういうわけだから。よろしく頼むぞ、ドブネズミども。」
「あんたみたいな下衆とよろしくしたくはないがな。」
「ふん、口が減らない奴らだな。」

 まぁいい。お前らが下であることにかわりはないのだから。
 新しい玩具が手に入った。これで当面、暇つぶしはできるだろうと楽しげにいいながらチョコラータが部屋から出ていく。床から現れたセッコがその後ろをついて、車へと乗り込んでいった。
 窓からその様子を見ていたソルベとジェラートが苦々しい顔をする。メローネとホルマジオははぁとため息をつく。なんだか厄介なことになりそうだと予感しながら。ギアッチョはめずらしく、激昂することもなく、その背を見送った。終始顔の青かったペッシの背をプロシュートが軽くたたく。安心しろ、と小さくいうものの、その眉間には深い溝が刻まれていた。離れたところで座り込んでいたイルーゾォはのろのろと鏡の中へと戻っていった。

「ソルベ、ジェラート。」
「……あの女、喧嘩売ってやがるのか。」

 彼女が置いていった趣味の悪い写真たち。それ以外の白い紙にびっしりと書かれた文字のられるを目で追いながら、舌打ちをした。書かれていたのは、自分たちについての、腹立たしいほど詳細な情報であった。

 リゾットは理解した。
 てっきり、あの女は自分たちと同じように鎖に繋がれているばかりだと思っていたし、それを甘んじているのだと思っていた。だが、違う。組織でさえもチョコラータという存在を持て余している。
 あの世紀の怪物は、最初から鎖に繋がれてなどいなかったのだと。

「困ったもんだな、本当に。」

 同時。首輪をむずがっている黒猫たちは、その自由に少しだけ嫉妬した。

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▼蛇足:
 原作だと完全監視体制からの封印状態だったチョコ先生。表舞台に出てくることはなかったようですが、こっちのはある程度自由にしてもらってる。代わりに、裏切り者の処分やら見せしめ、大掛かりな組織壊滅の時や緊急時の医者役として仕事をしている感じ。もちろん、それだけじゃ済まないし、全体的に行動が制限されはいるものの、ガス抜きしないと爆発されて面倒だからほどほどにお互い妥協している。
 ……と、ボスは思っている。

 実際にはバレなきゃいいんだろ精神でもっとやらかしてくれてる先生。そして、先生側は妥協してやっている、と思っているので、上から目線である。誰ともうまくいかない感じ。

 暗殺チームとの扱いが同等ながら、厄介さでは先生のほうが上という認識。なんせ暗殺チームには彼らなりの事情やプライド、仲間があって、先生より常識を持ち合わせてるため、ある程度動かすのが容易。しかし先生は常に自分さえ捨ててる節があるので、手綱をつけられない感じ。じゃじゃうませんせい。
 なので、表向きは似たようなものに見せかけて、本当は先生のほうが自由奔放。全く正反対だったりしたらおもしろいなぁ。 


mae  tugi
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