本日、ゴースト日和。
ぱちり、はじけるにんしきさい。///

「馬鹿な…今もこの部屋にいるだと!?」
「だめだこりゃ。」

 どうにか意思の疎通を図ろうと行動をしたひより。だが、結果として、余計に怯え……いや、混乱させることになってしまい、ディアボロ同様に頭を抱えていた。
 筆記した物体が読めないことはないようで、きちんと伝わらないことだけが残念だとひよりはぼやく。だが、ここに問題があった。目の前で混乱のあまりにとうとう行動を放棄した男にとって大切なのが敵かどうかではなくて、姿を見られること自体が疎ましい事実であるということだ。
 お互いに直接、意思の疎通をはかれない今、両者はどんどんと深みにはまるばかりであった。

「ねぇ〜、本当に、ほんっとうに善意なんだってばぁ。」

 ひよりがちょんちょんと肩をつついても、反応はない。
 交流がうまくいかないことと、やはり誰にも認識されないという事実を改めて感じ、ひよりは盛り上がっていた気持ちが段々と萎えていく。はぁ、とため息をついて、ディアボロのそばから離れる。

「…ちょっとは、期待したのに。」

 ふよりと宙に浮かんで、頬杖をつく。

「ねぇ、ボス…ここにいるんだって。本当。ねぇ…。」

 別段、こんな派手で、碌でもない男に執着する必要はないのだ。もうひとりの笑顔が可愛らしいが意外と凛々しいそばかすの少年も、同様である。それでも、この二人に執着しているのは…彼らが、幽霊になってから初めて”遭遇”した相手だからだろう。
 そしてひよりは初遭遇の二人に、期待をしている。占いを鵜呑みにするような性格ではなかったが、不可思議に飲み込まれては、多少は……迷惑な運命とやらを、信じてもいいと思っていたのだ。そして、運命というものがあるのならば。最初に会った人間をはじめとした大きな変化の時に見つけた相手というのは重要になると、そう、期待していた。

 だが、そんなものはないのかもしれない。ひよりはため息をつく。

 実に不機嫌といった様子でそっぽを向いたひより。目をそらしたから、気がつかなかったのだ。ディアボロが、ひゅっと息を飲んだことに。

「わたしをみてよ…。」

 ぼやくと同時に、ぱちん、と弾けるような音がした。何の音だろうかと、ひよりがゆるりと体勢を整えて周囲を見渡す。なんの変化もない。至って平穏、オールクリーン。気のせいだったか、それとも外でなにかあったのだろうかときょろきょろと見渡すうちに、相変わらずフリーズしているディアボロと、目があった。

「……ぇ?」
「な……。」

 そう、目があったのだ。ぱちぱち、と両者が驚きで目を丸くしながら瞬きを繰り返す。数秒の動作停止の後、先に動いたのは、ディアボロの方であった。

「貴様、どこから!?」

 ともかく、顔を見られたからには始末する!と、たからかに叫ぶとその背後に、影が出現する。真紅が目立つその存在に、ひよりは実に驚愕した。同時に、振りかぶられる拳に、ぎゃあと小さく悲鳴を漏らす。敵じゃないと叫んだとしても、いささか、間に合わない。
 たくましい腕が空を切る音がした。

「なにぃ?!」

 続いて、驚愕に目を見開いたのはディアボロの方であった。恐る恐ると、咄嗟に閉じてしまった目を開いたひよりも、釣られるようにして驚いた。かなり至近距離に互いがいることに関してもそうだが、ディアボロの驚きは、攻撃が当たらないことにあった。
 殴りかかったはずだったのだが、目の前の女に腕は当たらなかった。まさかと思い、もう一度手を伸ばしたが、それも虚しく空を切る。宙に存在していることは、不審に思った。同時に、自身の背後に従えている半透明の存在、精神体であるスタンドのように透き通っていることにも、多少、嫌な予感がしていた。
 それが現実になった事実に、ディアボロは冷や汗をかかざるをえない。これでは、始末しようにもできないではないかと、怒りのあまりに男は食ってかかる。

「き、さまぁ……何者だ!?」
「えっと、あー、その、それ、それ…なんですか!?」

 そしてお互いが冷静に話し合うまで、実に、長い時間がかかるのであった。

mae  tugi
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