しあわせになりたいわに
ぬるま湯スープに背を向けないで///


(お前は、いつもそうだな)

 おもわず怒鳴りつけようかと思ってしまうくらい、一瞬いらときた。

(へらりへらりと笑って、誰彼構わず助けてしまう)
(恐ろしい程、お人好し)

 相変わらず、目の前で笑っている。これから向かう先ではそうもしていられないとわかっているだろうに。俺が怒っていることもわかっているだろうに。

(いつかそれで殺されても仕方がないのに)

 こいつは分かっているのだろうか。
 俺が怒っていた理由が、DIO様の意に背いたからではないと。きっとわかっちゃあいないのだろうな。その目は。

 だが「気をつけろ」などと俺が言ってはならないのだ。DIO様の側近。最もあの方に近く、そして忠誠を誓う俺がこいつにそんなことをいっては、ならない。だから口を閉じるしかなかった。だが、ああ、もう馬鹿らしい。

 どれだけ気を揉んだところでこいつには伝わりようがない。
 どれだけ心配したところでこいつが変わるわけでもない。
 まして、その命運を握るのは俺たちではなく、ただ一人。

 この扉の向こうにいる、我らが主君ただお一人なのだから。

 ひらりと手を振る背が扉の向こうに消える。DIO様は、命令を遂行していなかったやつに対して怒りを見せはしなかった。そうだ、きっと殺しはしない。

「……死ぬなよ」

 ぼそりと俺が言ったのも、聞こえちゃあいないだろう。そういうことにしておいてくれ。
 代わりに俺も、お前が頷いたのは見なかったことにするのだから。


 目の前で扉が閉まった。次に見るのは、死んだ男かもしれないと思うとどこか落ち着かない。決めるのは自分ではない。選ぶのも自分ではない。ここで待つことしかできない。成り行きを見ることしかできない。
 自分はただ、従うのみなのだから。

 それでも、ほっとしてしまったのだ。だが、お前はこれも見なかったことにしてくれるだろう。お前の膝が笑ってることは見なかったことにするのだから。

 だから、そうだな。テレンスを呼んで、片付けをしようか。

mae  tugi
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