本日、ゴースト日和。
ライカの瞳///
カシュッ。シャッターの音が静かに鳴った。静かな夜だというのに、誰も気がつきはしない。ざまぁみろ。誰に言うでもなく彼女はそういった。しかし、その言葉さえ誰にも届きはしない。まるで自分に言ってるみたいだ。誰も誰も振り向いてはくれない。誰も誰も気がついてはくれない。誰も誰も。ざまぁみろよ。もう一回シャッターをきって、決定的な瞬間を写していくのだ。なんとも反則。幽霊がこんなにも介在してくる世界が存在してもいいのだろうか。ふとそんな疑念が沸いた。しかし、誰もこんな幽霊を気に留めちゃくれない。神様が叱咤してくれるでもないし、冥府の主が引っ捕えに来る気配もない。死後の世界はあるのかもしれないけれど、神様だけはいないのかもね。それじゃあ、やっぱり、このまま続けてよう。だってすることないんだもん。
カシュッ。今が未だ2000年に満たないと知ったのは半月ほど経った頃だった。新聞の年号はひっそりと笑うように教えてくれた。なんだ時代まで飛び越えちゃったのかと驚いたものだった。それにしても時代の流れのかく恐ろしきかな。手にあるカメラは、大分見知った形をしていた。80年代によく聞くオートフォーカスが主流になる。それからちょっとしたら、オートフォーカスなんて当然の顔をして、コンパクトカメラ。1900も後ろの方になるとデジタルカメラが登場するのだ。デジタルカメラには少し早いが、カメラの性能はすでに上々。倉庫にあったこのカメラだって、実は高尚なものだったりするのだ。
カシュッ。随分と遠いところに来てしまった。いまここにいる自分がという意味もあるかもしれないけれど。今日が遠出という思いもあるけれど。そんなものじゃなくて、なんだか心が。そういえば昔から子供っぽいと言われていたっけな。そう言われて恥ずかしいようで嬉しかった日々が、遠いような。それは目の前にぎとぎととあくどい大人たちを前にしてるからかな。それとも、自分から遠のいてしまったんだろうか。
カシュッ。それに。もうちょっと、見ていたいんだ。好きだったゲームも覚えてる。私はいつも主人公と仲間たちの背中を見ていたよ。切り開くようにして進んでく彼らの背中を見てる。背中に恋はしなかった。友達はそうでもなかったみたいだけど。向き合ってくれるのは悪の人。けれども、ほら、最後には主人公に負けてしまうから。それがいつも嫌だった。
カシュッ。だからもう戻れない。体は相変わらず実体がないまんま。戻り方だってわかんない。それでもいいやと思ってるんだ。だって、こんな刺激的な、一人ぼっちの生活。ほかじゃ味わえない。それに。だって。私の目の前には。私の。探してた理想が。
カシュッ。シャンシャン。
誰もいなくなった薄暗い室内。カメラを片手に、西洋の女性からすると幼く見える女性がひとり。その体がぼんやりと光を返していたが、背を向けて壁に歩き出したと同時に、溶けるように消え去った。誰も彼女を見てはいない。
mae ◎ tugi