しあわせになりたいわに
皿食らうまで毒を飲め///

 目の前で、ぶっちん。

 そんな音を立ててキレたらしい男のその狂乱ぶりを目の当たりにした三人…… いや、二人と一匹はぞくりと背筋に恐怖が流れ伝っていった。それは人のもつ本性と感情の深い深い底なしの闇を垣間見てしまったからだろうか。

 人はここまで狂えるのか。人は人をここまで狂わせることができるのか。絶叫にも似た怒号を耳にした途端、それまで全身を蝕んでいた痛覚さえも驚愕に麻痺した。


 ガオンッ!


 特徴的な破壊音が初めて聞こえたのは目の前で半狂乱の様子の男…… ヴァニラ・アイスによってポルナレフたちが強襲されたときのことであった。
 数分前の出来事である。ぽっかりと壁に、床に、あちらこちらに唐突に穴があいたのは。しかも、その穴のできたばしょにあったはずの物質はすべて消滅してしまうのを目の当たりにしてしまい、これはまずいと血の気が下がった。

 ポルナレフとイギーがアブドゥルにどん、と背を押されたのはその最初の強襲であった。

 危ない!と叫んだアブドゥルの声に突き飛ばされる。ずざぁあああっと地面を転がることになったポルナレフとイギーはすぐに体制を立て直し、そして自身の上に倒れてきたアブドゥルを支える。

「なにがっ」
「敵、だ…っ!」

 アブドゥルの血がポルナレフの手にぬめった。全身のあちこちに、まるで擦過傷のような傷が大量にできている。それが今の一瞬で付いたものだと把握し、敵の姿を確認しようとしたところで、すぐそばの壁が再び円形に穿たれた。

 ゆらりと目の前にたった男は、アブドゥルを見ていた。ポルナレフとイギーのことを見ずに、真っ直ぐに傷まみれの男を見ていた。
 …どこか、呆然とした様子で。

「なぜだ」
「……ッ、こ、これは」
「なぜっ!!そのスタンドは……ッ!!!」

 かしゃん、と音を立ててアブドゥルの腕から一つのアンクレットが地に落ちた。

「そのスタンドはッ!!!セベク神!!!貴様ァアアアアアアア!!!!裏切ったな!?DIO様をッ!!!この俺をッ!!!裏切ったなジーノーーーーーッ!!!!!」

 金具が壊れてしまったのか、落ちていったアンクレットは地面に当たると同時にきぃんと小さく金属音を響かせた直後に瞬きをする間もない一瞬で黒ずんで、粉々に砕け散った。

 小さな赤い宝石が弾けるように粉となって散っていったのも、同時であった。
 

mae  tugi
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