本日、ゴースト日和。
きらり、そのめのいろ。///

「お、久々に出てきてる。」

 相変わらず締め切られた窓から顔をのぞかせた先には久々に見かけるピンク色に謎のまだら模様が特徴的な男性の姿があった。真剣な顔で何か考え事をしているらしい姿を見るのはおよそ一ヶ月ぶりであった。本当にエンカウント率が低い。はぐれメタルかな?などとひよりが思っているのはここだけの話である。

「ボス、なに考えてるのー。」

 声をかけながら近づいて、その目の前で手をひらひらと振ってみても返事はない。それにしても、至近距離でみてみて気がついたが、まつげが長い。なんだか羨ましいなぁと思いつつもその猫目が手元の書類をがっつりと睨みつけているので、なんとなくそれを覗き込む。

「パッショーネったら本当にアクだね。」

 この組織が裏社会でもブラックとされる麻薬に手を染めていると知っているのは上層部だけだろう。もし知っていれば、あの好青年はこんなギャングに入ることもなかっただろうしと遠からず正しい検討をつける。無関係だがあちこちを探りまわって歩いているひよりはそんなことはとっくに知ってしまっていた。本格的に映画かドラマの世界のようだと関心しながら、見慣れぬ世界で傍観者然として楽しんでいた。
 当然、目の前の名も不明なボスがそれを主導しているのは明白である。そんな彼がじっとりと睨みつけている書類には、最近ちょっと邪魔をしてきてる組織に関する資料らしい。

「いわゆるギャング抗争ってやつ……? あー怖い怖い。」

 関わりたくないわ、と言いながらも着実に慣れてきてしまった光景である。この間もそれを実感した。やけに険しい顔をしたドッピオの後ろをついていったところ、いかつい顔の男性と何事か話し込んでは別れていった。悩んだ結果、その名も知らぬ男性についていけば、殺害現場に遭遇してしまい、本当にギャングだなぁという間の抜けた感想を持ったばかりである。
 次はこの写真の人のクビでも持ってこさせるのかな、と大分麻痺した感覚で眺めながら、あ、と声を漏らす。

「この人どっかで見たと思ったら……。昨日、路地にいたじゃん。」

 山ほどすれ違う人間の一人一人を覚えているわけではない。ただ、偶然、やけに辺鄙な路地で、見知らぬ男性と話し込んでいたので目に付いただけである。しかし、間違えようがないだろう。その顎に蓄えられた脂肪の厚さと左右で異なってしまった目の色なんて特徴があれば。

「世間は狭いね。ね、ボス。」

 目の前のボスはため息をつきながら書類を机の上に放り出した。疲れたとばかりに目頭を指で押さえている。当初こそ奇抜な服装にばかり目を奪われていたが、よくよく見ればその顔は外国人らしくすっとした鼻筋と鋭い目元が特徴的なV系っぽいイケメンである。
 イケメンはどんな動作をしてもかっこいいね、と最近は目の保養が多くて上機嫌なひよりは素直な感想を述べる。ドッピオもブチャラティも、ほかに町ですれ違った金髪スーツのお兄さんや活発そうな黒髪の少年といった多くの美形を思い返しながらひとりで頷いた。
 しかし、ひよりの現在最も興味がある男性は意外にもボスであった。長髪が好きというわけでも、露出がいいというわけでもなく、その遭遇率の低さと物珍しさからだったが。

「そういえばボス、そのあみあみの服はどこで買うの?手作り?特注?」

 秘密は女性を美しくするだの、黒は女性の美しさを際立たせるだのというが、あれは存外男性にも当てはまるんじゃないかなどと想いながら、その姿を見つめる。秘密で体が構成されているような男である。そして、身にまとっているのは黒いライン状の、もはや衣服として対して機能していない衣服。まぁ、一応黒い服と言えるだろう。完璧、などとひよりは呟きながら、その憂いた横顔を愛用しているメモ帳に書き留めるのであった。

 今日も双方の視線が交わることはない。

mae  tugi
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