夜の女王
25///

「大丈夫、大丈夫だよ、レジーナ。」
「……うん。」
「眠ってもいいんだ。」
「うん。」
「ほら、俺がいるだろ。」
「そうだね。」
「俺が守ってあげるから。」
「うん。」
「もう大丈夫なんだよ、レジーナ。」
「そうだね。」
「もし、俺がいなくたってさ、あいつらがいるから。」
「うん。」
「ちょっと不器用だし、愛想悪いやつもいるけどさ。リーダーとかプロシュートとか、たまにおっかねー顔してるけど、守ってくれるから。」
「……うん。」

 メローネの手がノッテを撫でる。ベッドの上にちょこんとすわりながら、床に足を下ろすノッテの隣に座って、その体を抱きしめながら、何度も何度も。泣いてしまった子供をあやすように、メローネが声を与え続けた。

「メローネ。」
「うん?」
「私はあなたに何もできなかったね。」

 はっきりとした言葉だった。目を閉じているが、彼女は起きている。メローネの手が止まった。

「何言ってるんだよ。俺は君に助けられたんだぜ。」

 返事はない。もう眠ってしまったのだろうか。

「俺は、あんたに守られてたんだ。」

 囁きのような声がノッテに聞こえていたか、メローネにはわからなかった。もしかしたら寝てしまったかもしれない。
 それでもメローネは彼女を眠らせるために子守唄を歌おうと思った。口から出てくることはなかった。彼も彼女も、そんなものを知らなかったから。

「おやすみ。」

 心臓の音にまどろみながら、ノッテがおやすみと小さく口を動かす。いつもみたいに額にくちづけて、メローネはノッテをベッドに横たわらせる。シーツをかけて、ブランケットもかけて、掛け布団を一枚。
 すぅっと彼女が眠りについたのを確認して、メローネは静かに静かに部屋を出た。






 リビングに戻れば、プロシュートとソルベがメローネをちらとみた。

「あいつは。」
「寝たよ。」

 ギアッチョが真っ先に口を開いたので、メローネは彼の方を向いて答えた。いつもノッテが寝ているソファに腰をかけて、はぁと息をつく。

「ありゃあ、なんだったんだ。」
「寝言だよ寝言。滅多にないんだけどさ。」

 寝言に返事をしちゃだめだって、聞かなかった?
 メローネがプロシュートに聞き返したが「知らねぇな」と彼は答えるだけだった。ソルベが「やけにはっきりした寝言だったな。」と茶化す。

「でもきっちり寝てたんだ。こっちに来て初めてじゃないかな。」
「いっつも寝てるじゃねーか。」
「寝たのは今日が初めてだよ、多分ね。やっと慣れたってとこ?」

 意味がわからねぇとソルベが漏らす。メローネは苦笑しながら説明のために口を開いた。

「スタンドが発動してるんだよ、普段は。体は寝てるけど、意識はかなりはっきりしてる。だから、夢の内容がわかるわけ。逆に言えば、頭の方が寝れてないんだよ。ずーっと起きっぱなし。」
「……今日のは?」
「本当に寝てたみたいだね。」
「ふぅん、違いがわからねぇよ。」
「わかるわかる。黒いもやもや、出てたろ。」
「……あぁ。」

 プロシュートは思い出す。眠るノッテと会話していた時に周囲に所在無さそうに漂っていた黒い霧のことを。意思を持つような動きをしながら、どこに行くこともできず、ゆらゆらと足先を揺らめかせていた黒い一団。光を通そうともせず、ただそこに黒々とあるだけの存在。
 不気味だった。生きている黒い霧が、ただそこにあるだけというのは、実に気味が悪かった。

「あれ、とりあえず俺はミストって呼んでるけど、」
「またそのまんまな名前付けるよなぁお前も。」
「うるせ。 とにかく、あれ、普段は出てこないんだよ。」
「ふぅん……起きてる時は出てこないってことでいいんだな?」
「ほとんどね。」
「たまには出てくるのか。」
「姿消すときとか、攻撃防ぐのとか、使ってたのを見たことあるよ。」

 一回だけなんだけどさ。とメローネが続けた。

「物理的なもんなのか、あれ。」
「スタンドには違いないけどね。結構使い道あるみたいだよ。」
「まだまだ、調べがいがありそうだな。」

 ソルベが真剣そのものといった表情で言った。メローネが眉尻を下げながら困ったように笑う。「そうだね」と弱い声で言ったメローネは、ノッテのことを思い出しているのだった。

mae  tugi
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