夜の女王
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 好きな食べ物。好きな色。嫌いな食べ物。嫌いな色。好きな人。好きなタイプ。苦手な人。嫌いなタイプ。チームメイトのこと。昨日のこと。一昨日のこと。もっと前のこと。近所のこと。遠いこと。雨が降っていた日のこと。晴れていた日のこと。自分が初めてリゾットと会った時のこと。ローマにいったときのこと。列車に乗ったときのこと。メローネとあったときのこと。ヴェネチアのこと。人を手にかけたときのこと。盗みをしたときのこと。夜を歩いていたときのこと。月が隠れていた日のこと。この間食べたごはんのこと。おいしいお酒のこと。ドルチェのこと。家族のこと。相棒のこと。今日のこと。

「えぇー、そんなことで怪我してたの。」
「そういうこと。だからあんまり怒らせないようにしようって話したりしてて……。」

 カップの中身はすでに四杯目。ふたり揃って、長々と話しているうちに日は暮れ始めていた。残る八人が帰ってくる様子はいまだ無い。

「げ、もうこんな時間か…… ノッテ、他の連中は?」
「うーん…… まだかかりそう。詳細言う?」
「いやぁ、いらな…あ、まって、ソル」
「ソルベなら今のところ怪我一つないよ。」
「じゃあいいや。」
「お兄様ったらつめたぁい。」

 けらけらとノッテが笑う。こんなふうに笑うこともあるのかとジェラートが驚いたのはすでに数時間前のことである。

「夕飯、どうする?」
「私あんまり料理はできないよ。」
「俺も。近くにおいしい店とかないの?」
「すこし歩くけど、そこそこ評判のトラットリアならあるみたい。」
「ああ、あそこか。じゃあそこ行こっか。」
「うん。」

ジェラートがカップを机において立ち上がる。洗うのは帰ってきてからでいいだろう。ノッテも続いて立ち上がる。ぱさりとめくれていたワンピースの裾が下りた。

「何食べよっかなぁ。」
「じゃあー、リゾットとか? ネエロのリゾット。」

 ぽろっと言われた言葉にジェラートがにやりと笑った。

「プロシュートもつまみでもらおう。」
「ペッシェたんまり、アクア・パッツァも。」
「クアトロ・ホルマッジョのピッツァもいいな。」
「いいね! あ、でもメローネはいらないかも。」
「夕飯にはならないもんなぁ。」
「イルーゾォは食べられないし。」
「一人だけ仲間はずれだなぁ。」
「かわいそう。」
「かわいそ。」

 仲良く手をつないで歩くほどには打ち解けたらしいふたりが、夕飯の話しをしながら道をゆく。遠くで誰かがくしゃみをしたきがした。

mae  tugi
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