夜の女王
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「だからメローネは私のことをレジーナ(女王)って呼ぶの。」
ぽつんとノッテがメローネに視線を送りながら言った。呼ばれたメローネはノッテの方を向いてにこりと笑って、また外を見る。
「……なるほどな、言い得て妙だ。」
リゾットたちはメローネがそう呼んだ真意をしらない。しかし、彼女の中になおも蓄積されていく莫大な量の記憶はおよそ普通とは言えないことを理解していた。
全て知ってる。およそ知らないことはない。人を越えようとしている。夜に夢見る、まさに怪物。見透かすような目が爛々とこちらをみている。彼女の黒い目は、外に広がる夜のように真っ暗で、なんとも言い難い感情を呼び起こす。
女王。黒い髪も黒い目も、夜の女王とでも言いたくなるほどである。
「いい呼び名だろ、レジーナって。守らなきゃならないんだよ。だからさ、俺も。」
まるで独り言のようにメローネが言った。イルーゾォはそんなメローネに眉根を寄せる。メローネが遠くを見ながらぼんやりとつぶやいたのが不気味だったのだ。
「別に、私がそうしろっていったわけじゃないの。」
「え?」
ノッテの一言にイルーゾォがぎくりと肩をこわばらせた。
少しばかり、彼はノッテを疑っていたのだ。彼女がメローネに何かしたのではないかと勘ぐっていたのだ。
それほど、メローネの様子は彼らが知ってる姿から離れ始めていたからである。
「私にもイマイチわからないんだけどね、メローネのこと。」
「お前にもわからないことがあるのか。」
「メローネが何考えてるのかなんて、知ろうと思わないだけだよ。」
あぁ。とリゾットが納得した。イルーゾォとホルマジオも苦笑しながら頷いた。
メローネという男に対する評価がここできっぱりと現れていた。
彼もなかなか頭のきれる男であることは確かだし、任務においては頼れる存在であるが、いかんせん人間としてずれている。というか何かが破綻している。考えを読むことができない。あるいは、そう、変態である。
……それが一同からのメローネに対する評価であった。
外を眺めるメローネに視線を奪われていた面々は気がつかなかった。同じようにメローネに視線を移したノッテが、考え事をするように緩やかに目を伏せたことに。
部屋が静まる。夜の静けさであった。ともすれば、目を閉じて、眠ってしまいそうな空気の中、話題の中心であるメローネが口を開く。
「レジーナ。」
「なぁに。」
ノッテはすでに目を開いていた。
「……なんでもないよ、レジーナ。」
「うん、知ってるよ、メローネ。」
ノッテの言葉にメローネは嬉しそうに笑うのであった。
mae ◎ tugi