夜の女王
18///

 ホルマジオにもたれ、メローネに足をあずけるという不可思議な体勢で寝ているノッテを不憫だと思ったのはイルーゾォであった。器用に寝てるものだと思いながら、つい足音を消してソファに戻り、三人にちらりと視線を向ける。
 ホルマジオはノッテをもたれさせたままテレビを見ているし、メローネは彼女の足に手を乗せたままテレビを見ている。その後ろ、ダイニングチェアにいるリゾットは何か資料を書いており、静かであった。ペッシと目があったイルーゾォが、そこでふと気がついた。

「ペッシ、なんか遠くね?」
「え、あー、いや。」

 もごもごと口ごもるペッシが一瞬ノッテを見たのに気が付いて、イルーゾォはそれ以上追求しなかった。苦手なのかもしれない。あながち間違ってもいない判断をしながら、イルーゾォは軽く頷いてノッテを見る。
 男に囲まれながら、すぅすぅと寝ている少女。白いワンピースがよく似合う、スタンド使いの黒髪の少女。それがイルーゾォの知ってることであった。
 イルーゾォはさしたたいしたことない風にノッテを見ながら声をかける。

「その、ノッテ、だっけ。俺、イマイチわかってないんだけど、スタンド使いなんだよな?」
「そうだよ。」

 彼はメローネに話しかけたつもりであった。しかし、返事をしたのは話題の中心であったノッテ本人であった。ぱっと目が開かれ、彼女はまっすぐにイルーゾォを見ていた。
 寸分の狂いもなくこちらを見つめる少女の黒い目。寝ていたとは思えないほどはっきりとした視線に、イルーゾォはなぜか息を飲んだ。

「ノッテ、寝れなかったの?」
「ううん、寝てたよ。」
「そう。」

 メローネが覗き込みながら聞いたが、ノッテが首を振ったのでその話は終わってしまった。イルーゾォをじっと見返すノッテの目。真っ黒の瞳にたじろぎそうになる自分を叱咤しながら、イルーゾォはカラカラの喉から声を絞る。

「あー、ノッテ?」
「なに。」

 イルーゾォにはわからない。自分がなぜ、年下であろう少女に対して強気に出れないでいるのかを。そしてなぜ、彼女の目を見つめ返すことにひどく疲れているのかを。
 それでも彼は、そんな自分をバカバカしいと一蹴して気になっていたことを口にする。

「どんな能力なんだ?」

 しんと部屋が静まった。まずったかと焦る。

「俺も聞きたい。ノッテ、お前のことを俺たちはあまりにも知らない。」

 助け舟を出したのはリゾットだった。ノッテと同じ、真っ黒な目が彼女をみていた。
 イルーゾォは考えていた。リゾットの目とノッテの目はそっくりだというのに、両者に抱く印象があまりにも違うことを。答えがでないことを考え込みそうになったところで、ノッテの声がした。

「そうだね。私は知ってるけど、私のことは知らないもんね。」
「教えてくれるか。」

 甘く入れたカフェオレをもってきたのは、ノッテに差し出すためだった。リゾットがノッテとメローネ、ホルマジオに近いソファに腰を下ろす。差し出されたカップを両手で持ちながらノッテが頷いた。

「いいよ。」

 夜はこれからだった。



mae  tugi
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