本日、ゴースト日和。
それでは、どうぞよしなに。///
あれから対して時間はたっていないが、ひよりは頭痛がする思いだった。相変わらず目の前にいる愛すべき情報源は自分を認識していないが、彼の背後を追いかけているうちにあれこれと事実が舞い込んでくる。結果を求めたのは確かに自分だったが、それでもこんな事実は知りたくなかったとあさっての方向を見るばかりだ。
「えぇ?あんなのあり……?」
ひよりがついて回っていた少年はドッピオというらしい。聞き慣れぬ単語ではあったが、とりあえず、あの容姿で日本人ではなかったことに安心した。まったく安心できないのだが、すでに冷静な判断を失いつつある彼女からしたら大した問題ではない。
ドッピオ少年とひよりが一方的な遭遇を果たした部屋が彼に与えられている仕事部屋であったことも会話から推測。そして、彼らが所属する団体の名前がパッショーネという名前であることも偶然判明した。
いたって順調な情報収集であった。なんか結構楽しいかも、などと思ってもいた。
「ううん、この威圧感と威厳……。」
問題があったのはそのあとである。あれから二度目になる通話を終えたドッピオがその大胆なデザインのセーターを脱いだのだ。「わぁ、サービスシーン。」などと思ったのはその瞬間までである。次の瞬間、そこには髪の色や雰囲気どころか背格好すら違う人物がたっていた。
「は?」と混乱したひよりの反応は実に正しいものだっただろう。現れたのはドッピオと異なり、随分と迫力のある男性であった。真っ先に扉に鍵をかけ、なに食わぬ顔で高級そうな椅子に腰掛ける。そしてデスクに置かれていた書類をぱらぱらとめくっては書き込んでいった。
現在も引き続き、突如として現れた男性は書類を確認しているところだった。そこでぽろりとこぼれたのが冒頭の一言である。今までいた健気そうなドッピオくんは何処。こんな一瞬で人が入れ替わるなんて摩訶不思議現象聞いちゃいないよ、と混乱中である。
まじまじと観察すれども、どうやら相手は気がついていない。気がついていないのをいいことに、するりとその背後に近寄って中を覗き込んだ。言い知れぬ存在感を放つやけに露出の激しい男性に近寄るのはない足がすくむ思いではあったが、好奇心には勝てなのだ。
覗き込んだ紙に並んでいるのは見知らぬ単語ばかりであったが、不思議とひよりには意味がわかってしまった。
「ほっほう、霊体特典ですかな。」
これは新しい事実を知ったと満足そうにひよりは続きを読む。段々と顔色が悪くなり、やがてそろりとその場から離れてしまった。そして悟る。パッショーネという団体様はいわゆるヤバい方の人たちだと。
「…………。」
正常な判断ができるのであれば、彼女はここから遠ざかっただろう。幽霊だから安全かもしれないが、なにも好き好んで危なそうな場所にいる必要もないのだ。さっさとここから離れて、この危険そうな人物のことなど忘れてしまえばいい。
だが、ちらりとひよりは眉間に皺を寄せている男性を見る。桃色の髪が似合う露出全開な男性なんてなかなかいない。それに、なんか知らないが、ドッピオと入れ替わった。
「……折角ならレア度高そうな方にしようかなァ。」
彼女はいたって冷静であったが、実際には正反対。一周回って冷静という最高にハイな状態であったが、それに気がつく人はどこにもいなかった。
mae ◎ tugi