夜の女王
16///
「……どうなってんだこいつ。」
ホルマジオは呆れながらバスタオルを手に立っていた。浴室。シャワーはすでに終わり、彼の前には器用に寝ているノッテがいた。
浴槽のへりに頭を預けて意識を飛ばしている少女は、当然、全裸のままである。手間の掛かる子供がやってきたことだと思いながら、仕方がなく、寝ている彼女を起こして髪の水分をざっくりと拭き取った。
「起きろ、ほら、風邪引くぞ。」
はぁい、と小さく声がしたが、すぐにすぅと寝息だけになる。聞いてないなと諦めたため息を付いて、大きめのバスタオルでその体をすっぽりと包み込んだ。
両腕でどうにか浴槽から担ぎ上げて、思ったよりも軽い体に驚く。しかしほうっておくわけにも行かないと脱衣所の床に下ろしながらぺちぺちと頬を叩いた。
「せめて着替えてくれ、な。」
「うん……。」
「ここ、置いとくから。わかったか。」
「うん。」
ぼんやりと目を開けたノッテに苦笑しながら、ホルマジオはさっさと浴室へと姿を消す。任務帰りで、彼も汗を流していないのだ。
扉一枚越しに聞こえるシャワーの音が、どうしてもノッテには子守唄に聞こえる。のろのろと起き上がり、新しいワンピースを手に取り、頭からかぶる。もたもたと袖に腕を通し、すとんと裾を下ろしたところでずるずるとノッテは座り込んだ。髪からはぽたぽたと雫が落ちて、床を濡らしていた。
体を洗いながらホルマジオは浴室の影をちらと見る。すりガラスの向こう側はお互いに見えていない。ホルマジオはノッテのことをぼんやりと考えていた。
彼女のことをホルマジオは詳しく知らない。恐らく、メローネでさえ詳しいことは分かっていないのだろうと彼は思っていた。
メローネはやけにノッテという少女を大切にしていたが、その理由の一つについてはホルマジオもようやく理解し始めていた。
ノッテには利用価値があるのだ。
メローネの行動はそれだけが理由ではなさそうであったが、ホルマジオたちにとってノッテの”知っていること”は大変貴重な情報が含まれている。その入手先や方法はいまだ検討がつかないが、もったいないことは確かであった。
ホルマジオは考えていた。これから、どうしていくべきかを。そして冷静に、どうしようもないことを理解していた。
「たく、面倒なもん持ち込みやがって。」
そこから先を考えるにしても、ホルマジオはノッテのことを何も知らない。彼女がスタンド使いであることだけはわかっていたし、それが彼女のもつ情報に関与しているであろうと検討もついていたが。
きゅっと栓を締める。
「……先に髪、乾かさねぇとな。」
ホルマジオはさっぱりとした表情でそう独り言をつぶやいた。
足早に浴室から出る。刈り上げられたさっぱりとした髪は軽く拭いただけですぐに乾く。体を伝う水滴を乱雑に拭い取り、新しい服に着替えて、足元のノッテに気がついた。
「また寝てやがる……。」
長い髪はまだ濡れたままである。さっさと衣類を身につけたホルマジオはノッテを持ち上げてリビングへと足を向けた。その手にはしっかりとドライヤーが持たれているのであった。
mae ◎ tugi