夜の女王
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ペッシは困っていた。
不幸にもここ数日、忙しい暗殺チームの面々は代わる代わるアジトを出ては任務を達し、帰ってきては寝床へと直行する日々を繰り返している。
それはノッテを連れてきたメローネや、リーダーたちも同様であった。唯一、半人前のペッシだけがこの数日は比較的慌ただしくなく、必然的にノッテのお目付け役は彼がすることとなった。
ペッシは困っていた。
先日アジトに転がり込んできたノッテという少女のことを詳しくは知らないからである。まる二日程がたってもその人となりというのがはっきりしない。彼女の、リゾットに似た真っ黒の目が彼は苦手であった。(もっとも、リゾットの目にそんなことを思ったことは一度もなかったが。)
リビングのソファで呑気に眠っている少女に変わったところはない。しかし、ペッシにとってノッテは少女というよりも得たいの知れない怪物のようなものに見えていたのだ。
なぜ自分がそう思っていたのか、ペッシにはわからなかったが。
だからこそ、ペッシは困っていた。
近くに行くことも躊躇い、しかし離れることも良くはないだろうと、同じ部屋でぼんやりと時計を眺めていた。
退屈である。そして、なぜか心が落ち着かない。アジトには彼とノッテの二人しかおらず、ペッシは自然と重たいため息をついた。
その時であった。
「放っておいてくれていいよ。」
「えっ。」
目を閉じて眠っていたノッテがむくりと起き上がっていた。第一声に戸惑いながらぎこちなくノッテを見るペッシ。目が合う。真っ黒な目が不気味で、ペッシはつい目をそらしていた。
「放っておいてくれていいよ。」
彼女は静かに繰り返す。
「そうは言ってもさ、えっと、何かあったら、困るだろ。」
「何かって?」
「え、あー、うーん……。 あ、危ないこととか。」
「私が逃げることはないし、見張りをするほどのものでもないと思うよ。」
「それはそうかもしれないけど……。」
「それとも、自信がない?」
「え?」
「信用がないのは知ってるけど、そうじゃないんでしょう。」
くぁ。あくびをする。
ペッシはノッテを見ていた。うまく言葉が出てこないのだ。困ったようにしたペッシをみてノッテは首をかしげる。
「あなたって、メローネたちとは全然違うのね。」
ペッシは驚いて固まっている。彼女の一言がかれには侮蔑に聞こえたのだ。ぐっと唇を噛んで俯いてしまったペッシに、ノッテが何かそれ以上いうことはなかった。
「放っておいてくれていいよ、何かあれば、すぐわかるから。」
ペッシも今度は返事をしなかった。そしてリビングを出て行く。うっすらと開かれた目でその後ろ姿を見届けて、ノッテはソファに体を横たえる。
部屋にはひとりきりになった。
mae ◎ tugi