夜の女王
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「ノッテ。」
「怒らないでよ、リゾット・ネエロ。」
冗談でも、縁起でもないことをとリゾットが苛立たしげに彼女の名前を呼んだ。プロシュートたちも同じだ。メローネ以外はみな、ノッテのことを厳しく睨みつけていた。
「レジーナ!」
声を荒らげたのは、意外なことにメローネであった。膝に乗せていた彼女の細い肩をがっちりとつかみ、振り向かせた。
ぐるりと視界を回され、黒い髪が半円を描くように揺らめいた。
「な、なに?」
「レジーナ、レジーナ!キミ!まさか、本当に!?」
「う、うん。」
「あんなに頑なだったじゃないか!」
「うん。」
「それを、レジーナ!俺たちには教えてくれるっていうのか!?」
「うん、あのね、メローネ。疲れちゃったの。私も。」
「……あぁ、レジーナ……。」
にこりとノッテが笑う。そして神経質そうにこちらを見ているソルベとジェラートを振り返り続けたのだ。
「もう気がつかれてるよ。」
「なぜわかる。」
「今すぐなら、ギリギリだと思うよ。」
「まて、何の話だ?」
マイペースに続けるノッテにリゾットが静止をかけた。ノッテは興味なさそうに、ソルベとジェラートは少しばかりバツが悪そうに顔を見合わせる。
「リゾット・ネエロはまだ知らないけど、いずれ知る事になるよ。」
「いずれって?」
聞いたのはジェラートだ。
「あなたたちが死んだあと。」
はぁ、とため息をついて顔を手で覆ったのはソルベであった。ぐっと苦虫を噛み潰したような顔をしてジェラートが足早に部屋をでる。ばたばたと足音を立てて廊下を去っていった男を、他のメンバーは驚いた表情で見ていた。
ばん、とドアを乱暴に開閉する音の後、ジェラートが息を切らして戻ってくる。その手にはいくつかの紙束が握られていた。
「これのことを言ってる?」
「おいジェラート!」
早とちりだったらどうするんだ、とソルベが声をあげた。ふるりと首をふったノッテに今一度口をつぐんだが。
何事かと現状を理解できていない面々は三人を見ているだけである。視線を受けながら、ノッテはジェラートとソルベを見ながら口を開いた。
「恐らくこの資料を手にしている時、俺たちは死んでいると思う。むしろ、そうでなければこの資料を読んでいるとは思わない。」
淡々とした少女の声に大げさに反応を示したのは、当然、ジェラートであった。ばっと手元の紙を開いたジェラートを見上げ、それからソルベはノッテに視線を移す。
「俺たちが調べたことをここに記す。」
ジェラートの震えた声が重なった。ばさりと落ちた紙をリゾットが拾い上げた。記されている一文が、今しがた、彼女が目を閉じながら読み上げた内容と合致することを確認し頷いた。
「今日からきみはここに住んでくれ。俺たちが全力で守ろう。代わりに、」
「わかってるよ、いくらでも教えてあげる。」
やったね、レジーナ。メローネが嬉しそうにいい、少女の髪を撫でた。彼女は頷きながら、もう一度目を閉じる。
「ソルベ、ジェラート、今ならきっと間に合うから。」
「……消せる分は全て消してきた。足跡も、これでこれ以上こちらを追うことはできない。」
「うん。じゃあ大丈夫。」
よかったね、とノッテが続ける。その声は殆ど寝息に溶けていた。
mae ◎ tugi