夜の女王
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「とりあえず今は、あー、ネエロでいいな。」
「おいプロシュート。」
「一番わかりやすいんだからいいだろ。」
「……ノッテ。ノッテにしろ。」
「そんなに嫌かよ。」
「落ち着かん。」
リゾットが脱力しながらどっかりと椅子に座り込む。ソファのへりに軽く腰をかけながらプロシュートがくくっと笑った。
メローネはそんな二人を見ながら、少女を向いて伝えるのだ。
「ノッテだって、レジーナ。」
「うん。」
「俺が言ったとおりだったろ。」
「うん。」
ひとまず付けられた呼び名に、少女は……ノッテはゆるく微笑んだ。初めて表情が変わったのをみて、ギアッチョは片眉をはね上げた。
メローネが彼女を”レジーナ”と呼んだことについて、誰もとうことはしなかった。聞くだけ無駄だと思っているのである。
もう一度部屋が静まろうとしたところで、リゾットがうなだれていた顔をあげて続きを促そうと口を開く。
「それで、メローネ。スタンド使いの女をこんなところに連れ込んでどうするつもりだったんだ?」
「どうもしないよ。レジーナが泊めて欲しいって言うから泊めてあげただけだし。」
「メローネ、お前、ロリコン?」
「ひっで。ちげーよ、ただ、んん…… レジーナのことは大事にしてるだけだぜ。な、レジーナ。」
「メローネどうしよーもないけど、まもってくれるから、ね。」
「そういうこと。」
くつくつと笑うメローネ。ついていけないと八人は首を横に振る。ふと、目を閉じていた彼女が目を開けた。
「リゾット・ネエロ。私をここにおいて。代わりに手を貸してあげる。」
ぴくりとリゾットが反応を示す。すぅっと細められた目には薄く敵意が含まれていた。
「なぜ俺の名前を?」
「知ってるから。リゾット・ネエロ、シチリアからやってきて、パッショーネの暗殺チームでリーダーに。」
そういうことか、とリゾットが天井に顔を向ける。プロシュートとホルマジオ、ソルベとジェラートも似たように顔をしかめて観念したように首を振った。ペッシがどういうことかとメローネを見る。メローネは得意満面といったふうににやりと笑っていた。
「ノッテ、知らないことは。」
「たくさんあるよ。」
「そうか。知ってることは。」
「たくさんあるよ。」
十分であった。
すでにリゾットはメローネがこの少女を保護していた理由を察している。他の面々も似たようなものであった。
彼女は知らなくていいことを、ほうほうや理由はどうであれ、知っているのだ。彼らにとっては致命的とも言えるほど驚異である。同時に、驚く程価値があるのだ。
「メローネ、謀ったな?」
「人聞きの悪いこと言うなよ、リーダー。連れてきてやったのは俺だぜ。」
リゾットがじろりとメローネを睨む。メローネはけろりとおどけてみせた。
mae ◎ tugi