夜の女王
8///


 ひたひたと足音が聞こえる。黒に覆い隠されている廊下の先から、白い塊がすぅっと姿を現した。メローネはそこでようやく振り返って、彼女の姿を確認する。日中にゆっくりと姿を見たのはひさかたのことであった。
 周囲を漂っていた黒いもやが吸い込まれるようにして消えていく。あっという間にいつもどおりの廊下がそこに現れたかと思うと、彼女は閉じていた目を開いたところであった。

「おはよう、ご機嫌いかが?」
「おはよう、メローネ。いい感じだったよ、静かだし、あったかいし。しばらくいてもいい?」
「いいよ、いつまででもいたらいいさ。九人で守ってあげるよ。」
「それはうれしいかも。」
「だろ。」

 勝手なことを言うなよ、とプロシュートが苛立たしげにいう。すぐに立ち上がって、現れた少女を抱き上げるメローネにリゾットは質問の続きを投げかけた。

「メローネ、スタンド使いというのは本当なのか。」
「うん? いま見なかった?」
「……アレが、か。」
「そうだよ。」

 女と呼ぶにはまだ若く、子供と呼ぶにはすこし大人びている彼女を膝に乗せたままメローネが答えた。あたりには微塵もスタンドの気配はなく、となると、当然黒い霧のようなものも見当たらなかった。
 メローネに体を預けて、再び目元を擦り始める少女にギアッチョは聞いた。

「名前、なんつーんだよ。」
「なまえ……?」

 きょとんとした少女に、違和感を覚える。メローネに視線を向けても、軽く肩をすくめるだけである。まさか、とプロシュートの口元が引きつった。

「名前がねぇなんて、いわねぇーよなぁ?」

 返事はない。遠まわしの、肯定であった。




mae  tugi
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