夜の女王
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「なんだって、君から会おうなんて言い出したんだ。」
眠たげな目を向けて向き合う彼女は、今日も素足で石畳を歩いていた。
彼女の周りに明かりはなく、彼女が近づくほどに周囲は姿を変えていく。メローネはその様子に驚くことも、恐ることもなく彼女の言葉を待った。
「眠たいの。」
ぽつりと告げられた言葉を復唱したメローネが「わかったよ」と返事を一つ。
ぺたぺたと歩み寄る彼女はメローネと並ぶとだいぶ、背が小さく見えた。見上げる彼女とみさげる自分。あまりなれない体制に、メローネは膝を折った。
今度は正反対だ。みさげる彼女と見上げる自分。しっくりときた身長差に、メローネはにっこりと笑って手を出した。女の小さくて柔らかい手が重ねられる。
「知ってると思うけど、大所帯なんだ。今は九人いて、全員男。」
「うん。」
「俺のベッドでいい?」
「うん。」
「オーケー、いくらでも泊まっていって。ちゃんと俺が守るから。」
「うん。」
メローネが両手で彼女の手を包む。半分ほど眠り始めている彼女が「ありがとう」と小さく囁いた。
とんと彼女がメローネに体を寄せて、抱きついた。ゆるく抱き返しながらメローネは軽々と彼女を抱き上げる。
「じゃあ、帰ろっか。」
立ち上がったメローネは、自分にまとわりついている何かが霧散していくのを感じていた。すっかり消えていた街の電灯が戻り始める。
いつの間にか、遠くの空が色づき始めている。じきに日が昇るだろう。後退していく夜に背を向けるようにして、メローネは踵を返すのであった。
mae ◎ tugi