夜の女王
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 やけに人気のない道だ、とギアッチョは文句をうつむきがちのまま足早に通りを歩いていた。ひんやりとした夜の空気に一瞬花の匂いが混じる。素早く顔を上げた彼の数メートル先に見知らぬ女がひとり立っていた。

「何だ、てめぇ。」

 ぽつんと立つ彼女の頭からつま先まで、ギアッチョはじろじろと遠慮なく観察する。敵かと警戒の色を強めるギアッチョの様子に興味を示すこともなく、彼女はギアッチョの名を呼んだ。

「ギアッチョ。」
「あぁ?」

 不信感が強くなり、じりとギアッチョは半歩足を引く。
 夜風が吹き、女の白いワンピースが緩やかにはためていた。

「あした、会おう。」

 ぼんやりとこちらを見ている目も、夜のようにぽっかりと黒い。ぞわぞわと背筋を撫でられるような、嫌な気持ちにさえさせるその目を見返しながらギアッチョは自身の周囲に冷気をまとおうとした。
 そして気が付く。いつまでたっても、自慢のスーツが形成できないことに。はっとして女を睨む。彼女はのんきにあくびをしていた。

「おい、お前……!」
「メローネに伝えておいてね。」

 ギアッチョはチームメイトのことを思い出していた。イルーゾォという、どこか線の細い印象を与えるその男のスタンド能力は、許可しない相手のスタンドさえも追い出すことが可能である。
 ギアッチョは現在、自身のスタンドを使うことができなかった。当然、思いつくのはイルーゾォのマン・イン・ザ・ミラーであったし、遠からず正解であろうと舌打ちをしながらいつでも攻撃できるように警戒していた。

 しかし、対照的に彼女はマイペースである。伝言らしき言葉を告げ、こちらの警戒など知ったことかとばかりに、もう一度あくびを零す。

 そして彼女は「おやすみなさい」と言いながらギアッチョに背を向けた。

「は、え、おい……?!」

 もう一度おやすみなさい、と声がしたかとおもうと黒々とした夜霧に彼女は包まれて消えていく。
 駆け寄って捕まえようと手を伸ばしたものの、その手は空を切った。

「なん……?」

 きょろきょろと周囲を見渡しても怪しげな女の姿はない。往来の真ん中で中途半端に手をもたげたまませわしなく周りを見るギアッチョに通り過ぎる人々はちらと視線を向けては足早に立ち去っていく。

「なんだってんだよ……。」

 だらり。脱力した腕が重力に従って下ろされる。がしがしと苛立たしげに頭をかきながらギアッチョはその場を立ち去った。

 通りにうっすらと、月下美人の匂いを残して。




mae  tugi
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