本日、ゴースト日和。
おはよう、こんとんさん。///
ぷかりと体が浮かぶ。
言い知れぬ感覚に目を開けると、そこは見知らぬ一室。窓が締め切られている閉鎖的な部屋は中央にある立派なデスクと椅子以外に随分とシンプルな作りだった。
足元にひかれている毛の長い絨毯は触り心地がいいのだろう。赤い色は派手過ぎることのなくどこか重厚なアンティークを彷彿とさせる部屋にマッチしていた。
ここはどこかと考えるより先に、彼女は気がつく。絨毯を見下ろしたまま、自身の足がそこについていないことに。
実に混乱を極めた。
彼女だけの室内でひとりで泣きそうな顔をしている。部屋は相変わらず見知らぬ場所のままで、大地につくはずの足は消失していた。影も映らないし、かざした手は向こう側をほんのりと透けさせる。
俗に言う幽霊のような状態であると直ぐに直感した。それはよしとしよう。だが、まったくもって進歩はない。ただ単に混乱を助長させただけであった。
どうしたものかと首をひねり、もうすぐ20年になる人生を振り返りながら打開策を考える。……オカルトは多少知っていても、こんな緊急事態の解決方法は思いつかなかった。
「大体……どこ、ここ。」
足はなくとも動くことはできた。ない足を動かすような真似はしなくていい。ただ、重心を進みたい方向へ傾けるだけでいい。あるいは移動したいと思うだけで、するすると滑るようにして動くことができた。あらゆる方向にそれは可能で、思いのほか便利な体であると気がついたのもつい先ほどである。
唯一の扉は閉ざされており、その向こうが見えることはない。透視能力があるわけではないのだから、当然である。
もう一つ、執拗に閉ざされた窓の向こう。見る気にならなかった。漠然と、そこには知らない景色が広がっているのではないかと恐れているのだ。それが正しいと知るのは少しあとであるが、先走る恐怖心と不安により近寄ることができなかった。
扉が開かれたのはその直後であった。
mae ◎ tugi