甘い死に歌
甘い死に歌10///

※名前変換なし
※チョコラータ成り代わり(女)

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 寝台で横たわったまま、セッコを呼びつける。つらりと、すぐにソルベとジェラートをほかの部屋に連れて行くように伝えれば、彼はその指示に従った。理由を聞いてはいたが、今後の予想を言えば、存外頭のいいセッコは納得したようで、すぐに去っていく。
 体力を損なってしまったと自虐的にため息をつきながら、外の音に耳を澄ます。ほどなくして、遠くに聞こえていた靴音が鋭さを増しながら、やがて戸を開いた。

「……俺は、お前が自分を犠牲にするほど、そいつらに愛着があるとは予想していなかったぞ。」

 手術台の眩いあかり以外に何もない部屋で、照らし出されてる惨状にディアボロは平然とした様子であった。ただ、繋がれていないチョコラータの手足を拾い上げては、感心したように言葉を投げかける。

「はっ、俺も思っちゃいなかったよ。」

 本当に。なぜだろうな。と他人事のように言う、手足の損なわれた女は自嘲の笑みを浮かべていた。ちらりと視線を向けながらディアボロはふん、と鼻を鳴らす。

「あとはお前の首と右腕を落とせば、なるほど、たしかに要求通りだ。」

 及第点だろう、と言うディアボロにやれやれと首を振る。この男の要求は、人体のパーツをひと揃え。もう一つ、細切れに、などと言っていた気もするが、及第点と答えたところを見るに、許容範囲ではあったのだろう。

「……やれっていうなら、やれないこともない。」

 腕はまだ残ってる。すでに切り落とされた身体なら、切り刻むのも苦ではない。パーツが足りないというのなら、今この腕を落とせばいい。生憎、スタンドのあるチョコラータにとって両腕が分離することは問題ではない。
 やればいいのかと挑発的に問いかけたチョコラータにディアボロは無言で必要ないと意思を示す。

「いいか、俺のこれは、いわば最終手段だったんだ。てめぇに見せるつもりもなかった。貴重な瞬間だぞ? 感謝しろ。」
「口の減らないやつだな、チョコラータ。」

 ぽい、と放り投げられた腕に、「丁重に扱いやがれ」と文句を一つ。そんなチョコラータに呆れたように肩をすくめたディアボロは続ける。

 「まぁいいだろう…… お前の要求どおり、あいつらを見逃してやろう。だが、二度はない。」
「…………あぁ、十分だ。」

 途端に険しさを増した声音に、空気が引き締まる。同じく神妙な顔つきをしたチョコラータは、ボスと視線を交えた。この男はつまり、命だけは見逃してやる、と言っているのだ。
 ギャング。秘密結社パッショーネ。今や他の由緒ある結社にも負けず劣らず破竹の勢いでのし上がってゆく新たな組織。その多くは、よもやパッショーネが一代によって作り上げられているとは思いもしないことだろう。ネアポリス、その周囲、イタリア全土は愚かヨーロッパ中に不気味な紫煙を蔓延させたその手腕。
 恐ろしく頭の回る男なのだろう。この、ボスは、ディアボロは。だから、きっと、今この瞬間にもあらゆることを計算ずくなのだろう。
 そう思うと、ぞっとする話である。もしかすると今この現状でさえも、この男の手の上なのではないかと。そう思わせるような不気味さが、その目に見える気がするのだから。

「当然、今回の件について、責任もとってもらう。」
「…………女々しいやつだな、あんた。」

 暗殺チームは首輪付き。こうして、ボスにいいように使われるだけの惨めな生涯を迎えるしかなくなってしまったのだ。あのリーダーがここにいたら、無言で頷いたのだろうか。それとも、やはり、歯向かったのだろうか。結論のない疑問に、きっと頷いただろうと自己完結をしながら、自分もまた、頷く。

「命があるだけ、よかったと思うんだな。」
「…………あぁ。」

 同じように、首輪をされたのは。ほかでもない自分自身である。もしかすると、この男が狙っていたのはこれなのか、と。詳しくは後日。そう言って、足早に去っていくディアボロに、かろうじて悪態をつきながら、ぼんやりと瞼を閉じ始める。
 これでよかったのだろうか。あの男はこれを。セッコはちゃんと。ソルベは。ジェラート、あいつ。腕が重いな。足が痛む。ああ、いや、足はない。腕はあるが。いや、片腕は。そんなことより、これをどうして。なぜわたしは。
 チョコラータの思考がとどまるところを知らないのは、意識が遠のき始めていたからである。度重なる体への負荷は、存外、体力を奪っていた。情けないと愚痴をこぼしながらトコラータはすっかりと眠ろうと目を閉じた。

 セッコが何か言っている。ソルベとジェラートの声も。ああ、まて。それ以外に、そこに。待ってくれ。今、迎えに行くから。少し。少しだけでいい。休んだら、すぐに。

 かつん。足音を残して、誰かがその部屋から立ち去る。そこに、すでにチョコラータはいなければ、その四肢もない。何も、血だけが残された部屋で、セッコだけが顛末を眺めていたのであった。


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▼蛇足:
ちょっと短めに、繋ぎ。ぐにゃりと未来が歪みだす最初の一端。あと一話でソルベとジェラートの大事件は幕間ですかね。もうしばしお付き合いください。


mae  tugi
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