02

「はーい。んじゃあ初めて見る子もいるからサクッと自己紹介するね。俺はフランシス、年齢は秘密ね。担当教科は家庭科、こう見えて結構料理上手いんだよ?チャームポイントは…え?髭?格好いいだろ〜惚れちゃう?…そんなに笑うなよなぁ〜傷ついちゃうぞ!で、えー好きな言葉は…なに、どーでもいい?折角スリーサイズまで教えてあげようとしてたのに〜」


つらつらと饒舌に話し始めると生徒達は笑いながら突っ込みを入れてくれる。まぁ、掴みは大体こんな感じで流しておいて…連絡事項とか、役員とか決めなきゃなんないんだっけ?こういうのは立候補があればサクサク決められるんだけど、なかなかやりたいなんて子はいない。だって面倒臭いもんな、委員長とかさ。号令とか雑用とか押し付けられるし?成績上げようとか目立ちたいとかいう子は割と積極的なんだけど、大体のクラスは多分面倒臭がってやらない子が多いだろうな。
黒板に役職の名前を書き上げながら、やりたい子がいたら手を上げてねーと声をかけた。すると案の定、生徒間では譲り合いというか、推薦のしあいが始まった。これはなかなか難航しそうだなぁと聞いていると、ひとりの男子生徒が一際大きな声でとある生徒の名を呼んだ。


「本田が良いと思いまーす」


不意に静まり返った教室内で、皆の視線が指名された本田へと向かう。俺も吃驚して振り返ると、なんの感情も宿さない瞳と再び目があった。彼は、なにも言わずにただじっと前を見つめている。
本田が反論しないのを良いことに、堰を切ったように一斉に「本田で良いじゃん」「やりなよー」などと口々にそう言い始めた。


(…待てよ、これ…──)


決して良いニュアンスを含まないそれらの言葉を聞いて、俺は密かに眉を寄せた。明らかに嘲笑でしかない言い方ではまるで…本田をわざと浮き上がらせようとしているようにしか思えない。
本田は──慣れているのか──なにも言わないつもりだろうが、さすがにこうも本田の意志が無碍にされているばかりではこの先もこんな事が続いてしまうだろう。なるべく言葉を選んで、声を挟んだ。


「…それじゃ本田の意志が反映されないでしょーが。ね、だからちゃんと話しあって」
「構いませんよ」
「そう、ほら本田もこう言って…え?」
「構いません。私が、引き受けます」


フォローしたつもりだった。けれども彼は淡々とそう言い放ち、何事もないような顔をして座っている。呆気に取られたのはどうやら俺だけで、他の生徒はこうなるのが当然という表情を浮かべていた。
初めて聞いた声が余りにも凛としていたのに加え、その底にある無機質な感情が、俺の耳から離れなかった。


「…ホントに良いの?」
「大丈夫です。信用ありませんか?」
「いや、そういう意味じゃないけど…あ、じゃあ副委員長は」
「要りませんよ。私ひとりで十分です」
「…そう言うわけにはいかないよ。決まりだからね」


彼がなにを考えているのかさっぱり分からないが、これが彼の他の者に対する"壁"なのだろう。端から相手にしていないという、そういうことか。
だが決まりという言葉に僅かに反応した彼は、仕方ないという風に小さく溜息を吐いてどうぞ、と呟いた。しかしちゃっかりと「副委員長は名前だけで結構です」と付け足して。俺がそれに笑いかけて頷くと、微かだが彼の目が一瞬見開かれた…ように思えた。

どうやって副委員長を決めようかと唸っていると、司会の端で誰かが静かに手を上げるのが見えた。そちらに視線を寄越すと、不機嫌そうな瞳が俺を捉える。


「俺がやる」
「…アーサーか。反対は?いないね。なら頼むよ」
「あぁ」


正直驚いた。彼はもう少しで任期を終えるが現在の生徒会長で、本来ならばこういったクラスの役職には普通就かない。幾ら名前だけの仕事とは言え、彼が自主的に手を上げるなんて。
そういえばアーサーは皆が本田に声を掛けているときも、ただ不機嫌そうに黙っていた。その時はなにも気にしなかったが…今、少しだけ違和感を覚える。


「…じゃあ、本田とアーサーに今期は頼むね」
「はい。よろしくお願いします」
「あ、あぁ…」


その疑問も、一瞬で晴れた。
相変わらず無表情な本田に声を掛けられ、アーサーは顔を赤くしながらそれに答える。成る程どうやらこれは、アーサーから本田に好意のベクトルが向けられているらしい。彼らの間にどんな関係があるのか分からないが、少なくともアーサーは本田を悪くは扱わない。


それに安心する一方で、何故かもやりとした感情が湧き上がる自分が確かに居たのだった。









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