***
 
「グレオニー!」
 
 
中庭に面した石造りの廊下。
後ろから聞こえた溌剌とした声に振り向くと、赤褐色の髪の人物が、俺に駆け寄ってくるところだった。
 
 
「レハト様!どうしたんですか、そんなに走って。何かありましたか」
「ううん、ただグレオニーが見えたから」
 
 
うれしくて、走ってきちゃった。
そう笑う子どもに、心臓の奥のほうがぎゅううと締め付けられる。
 
風に揺れる赤茶色の髪。
きらきらと光を抱いて俺を見上げる晴天の瞳。
つんと高い鼻梁の下には、小振りな唇が弧を描いている。
 
あの日、大樹だけが見ていたあの出来事以来。
俺はこうしたレハトのちょっとした仕草にさえ、胸が高鳴るのを止めることができなくなってしまった。
俺だって、伊達に人生送ってきていない。
アネキウス様に聞かなくたって、俺の心臓が生んだこの想いの名前くらい知っている。
 
「ねえグレオニー、今日はすっごく晴れてるから、僕屋上に行きたいんだ」
 
するりと俺の太い腕に絡みつく、真っ白で細い柔らかな指。
見上げる瞳はふさふさとしたまつ毛に囲まれて、瞬きするたび音が聞こえそうだ。
音を零す桃色の唇は、春になると咲き乱れる花によく似ている。
 
汚してはいけない。そう思っていた。
透き通ってしまいそうなほど真っ白で、無垢なレハト。俺の弟分。
だけど、レハトの持つ小さな美しさに気づくたび。俺の退路は断たれてしまう。
 
「ね、グレオニーも一緒に日向ぼっこしに行こう」
 
頷けば、蕾が綻ぶ様に笑う。
俺はもう戻れない。
 
 
海見えるかなあ、そうほほ笑むレハトの横顔。
成人して、女になることを選んだら。きっと美しさでレハトに叶う者は居なくなる。
 
ごめんなレハト、兄ちゃん、そんなことばっかり考えちまうんだ。
 
手のひらに重なる小さな手。
赤くなる頬がレハトに見えないようにそっと顔を背けながら、柔らかなそれをそっと包んだ。
 
 
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