■甘い手


「あっ…」


ふっと背を向けた瞬間に、自分を引き留めるような薫の腕に気づいて吾郎は振り返った。
心なしか薫の声音にどこか寂しそうな響きも感じたのだ。





「どうした、清水?」
「…え、いや…なっ、なんでも、ないっ…」


問いかけにハッとした薫はすぐにみずからの腕を放して誤魔化そうとしたが、そのあわてる様子は吾郎の好奇心に火をつけるには充分すぎるほどだった。


「何でもなくねーだろ?」
「…ホント、何でもないから」
「思ってることなら言えって」
「だって…」
「いいから」


言いよどむ薫を逃がさないようにまっすぐ、しかし優しく見つめながら聞き返す吾郎に、根負けした薫はうつ向きながら聞こえるか聞こえないかわからないような小さな声で呟いた。


「…もう少し、くっついてたかったなあって…思っただけ、だから…」


その告白に吾郎は目をぱちくりとして固まる。
その沈黙に耐えられずみるみると耳まで赤くなった薫は急いで訂正しようとした。


「ごっ…ごめん、やっぱりあたし似合わないこと言っ…」


あわてふためく薫はそのまま吾郎にギュッと無言で抱きしめられる。
薫が恐る恐る見上げると、嬉しそうに微笑む瞳と目があった。


「バカ。そういうことはな、もっと言っていいんだよ」
「…うん。努力する」





薫をひたすらに可愛く書けるようになりたいです。精進。

普段は遠恋で意地っ張りな彼女だからこそ、ふとしたときに不器用ながらも甘えてきたりなんかしちゃったらもうその破壊力は物凄いと思います。

そりゃあ彼氏もたまらんと思うんだわ〜。



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