■似た者同士


「(し、しまった…)」


一時間目の授業が始まり、カバンの中を探った薫は心の中でそう呟いた。


「(教科書…忘れちゃった…)」


あろうことか、授業で使用する教科書を忘れてきてしまったのである。


「(どうしよう…)」


どうすることもできず、途方に暮れる薫。


「じゃあ…清水。教科書56ページ読んで。」


更に運悪く、教師に指されてしまった。


「えっと…」
「ん?なんだ?どうした?」
「教科書…忘れました…」
「清水が忘れ物なんて珍しいな。
…隣の席の茂野!清水に教科書を見せてやりなさい。
清水、今度からは気をつけるんだぞ」
「俺が!?」
「何だ。忘れたんだから仕方ないだろう。見せてやりなさい」
「…へーい…」

渋々頷く吾郎。


「本田、ごめんな」


小さな声で謝罪をして、教科書が見やすいように二人の机をくっつける。


「ったくよー、教科書忘れるなんてお前も相当バカだよな」
「何だと!?授業中いっつも寝てばかりいるお前に言われたくねぇよ!」
「はぁ!?そりゃ確かに昔の俺は授業中寝てたけどよ…。海堂に筆記試験があると知ってからの俺は違うだろーが!
すっげぇ真面目だろーが!!」
「ふーん。そーですかー」


全く気持ちのこもっていない言葉で返す薫。


「何だよその言い方はぁ!いちいちムカツク女だぜ!」
「コラ!茂野、清水!!静かにしなさい!」
「あ、すみません。」


ヒソヒソ声で話していたつもりが、ケンカが白熱するにつれて大きな声になっていたようで、二人はクラスの注目の的となっていた。
教師に注意されたせいもあって、真面目に授業を受ける二人。

が。


「あ、消しゴム忘れちまった…」


それからしばらくして吾郎がポツリと呟いたひとことを薫は聞き逃さなかった。


「消しゴム…忘れたのか?」
「あぁ」
「はい、これ貸してやるよ」
「悪いな、サンキュ」


薫の手から消しゴムを受け取る吾郎。そして使い終わった消しゴムを二人の間に置いた。


「えー、ここが動詞でここが形容詞であるわけだから…」


退屈な授業はなおも続く。


「(あ、間違えた)」
「(間違えちまった)」


消しゴムに同時に伸ばした二人の手が、軽く触れ合う。


「ご、ごめん!」
「わりぃ!」


お互い伸ばした手を慌てて引っ込め、そして固まってしまう。


「ほ、本田が先使えよ」
「いや、俺は後でいいからお前が先使えって」


そんな譲り合いをしているうちにチャイムが鳴り授業は終了。


「見てたぜー!」


ニヤニヤと二人に近づくのは元チームメイトの沢村。


「何がだよ」


不機嫌そうな顔で返す吾郎とは対照的に、沢村はとても楽しそうだ。


「消しゴムを取ろうと手を伸ばしたら…」
「だーーーっ!!言うな言うな!!」


真っ赤な顔で沢村の言葉を遮る吾郎。
その隣では薫も真っ赤になって俯いてしまっている。


「何だよ、恥ずかしがることねぇじゃねぇかよ。」
「別に恥ずかしがってなんか…」
「ウソつけ。バレバレだぜ?それよりホンットお前らって似た者同士だよな」
「どういう意味?」


沢村の言った言葉の意味が分からず、薫は首をかしげた。


「清水は教科書、本田は消しゴム。同じ日に二人仲良く忘れ物するんだからな!
さすが運命の赤い糸で繋がった二人というか、何というか…」


うんうん、と一人納得したような口調で話す沢村だったが、背中に突き刺さるような冷たい視線を感じて恐る恐る振り返った。


「「さーわーむーらー!!」」


二人で声をそろえ、同時に沢村につかみかかろうとする吾郎と薫。
そんな二人を見事にかわし、廊下に逃げる沢村。
そしてその後を追う吾郎と薫。

逃げながら沢村は『あいつら、追っかける時も息ピッタリじゃねぇか』と思ったとかそうじゃないとか…。





咲姫様にリクエストして書いて頂きました!わーい感謝!!

タイトルからしてツボりまして、素直になるにはまだまだ時間のかかる吾薫が、初々しくてじれったくて、少女マンガみたいな可愛い雰囲気がほほえましいです。

素敵なお話を、本当にありがとうございました!



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