■ルールは無用!


授業が終わりあたしが部室に向かうと、その前をウロウロとしている人影を見つけた。

それはあたしのダーリンである茂野吾郎の幼馴染み、清水薫だった。
あたしとあの子は今まで何度も顔をあわせることがあったけど、そのたびにお互いにギスギスとした空気になることばかりだったように思う。
この子もダーリンのことが好きなんだと思えば、それは仕方のないことなのだけど。
カマトトぶってその想いを相手には隠している様子も、あたしの恋愛観にはそぐわなくて気に食わないのだ。


(…幼馴染みだからって、なんだっていうのよ。恋愛は先着順じゃないんだから…)


ショートカットのその人物はどうやらあたしがそばにいることには気づいていないようだった。
またダーリンになにか用事なのかと思うとついつい意地悪な気持ちがわいてきて、わざと大きな声をかける。


「あのースイマセーン、こちら部外者は立ち入り禁止なんですけどおー?」
「あっ…ちょうど良いところに!」
「聞こえなかったの?部外者は出てってくださいます?」
「いや、その…実はマネージャーのあなたに頼みがあってさ。この前の試合…ウチと三船戦のスコアブック見せてもらえないかなぁ」
「え?スコアブックを?」
「あたし、この試合のとき大遅刻しちゃって見れなかったんだよね。どんな内容だったのか、きちんと詳しく知りたくて…」


そう説明しながら心底悔しそうに呟いている様子に、何だかあたしはちょっと自分が優位になったような気がして得意に答えた。


「あーら、あの試合を見逃すなんてそれはそれは残念ですこと。まあどうしても見たいって言うんなら、あんたもそれなりの態度を…」
「今まですみませんでした!お願いします、中村さん!!」


あたしが言葉を言い終わらないうちに清水薫は物凄い早さで頭を深く深く下げてくる。
言えばまるで土下座でもせんばかりの勢いに少しうろたえた。


「なっ、なによ大袈裟ね…。別に、スコアくらいいくらでも見せてあげるわよ。」
「あ…ありがとう!やったあ!!」


反転、今度は気味が悪くなるほど満面の笑顔で素直に礼を伝えてくる。
きっとこの子もあたしのことが嫌いだったはずなのに、なんだか今日は調子を狂わされてる気がして居心地が悪い。


(そんなにまでして見たかったの?あの試合のスコアブック…)


あたしは部室のカギを開けてそのまま目当ての品物を手渡す。
清水薫はすぐさまそれを目で追い、その試合経過にコロコロと表情を変えていた。
ピンチの場面のときは険しく、逆転の場面のときは嬉しそうに。


「…あー、見たかったなぁ…」


目が追っているのはスコアブックだけなのに、試合がまざまざと見えているみたいな瞳をしていた。
その反応がまるで幼い子供のように思えて、なんだかあたしはおかしくなった。


「ダーリンはもちろんだけど…、あんたの弟もすごく頑張ってた。格好良かったよ。」


相手につられたのか、あたしは思わず言うつもりのなかった一言を口に出していた。
スコアブックから目を上げた清水薫は「そうなんだ」と呟いて、嬉しそうにしている。


「…ハイ、じゃあもういいでしょ。用事がすんだら部外者は出てって下さーい。」

急に気恥ずかしくなったあたしは、空気を変えるようにサッと手の中にあるスコアブックを奪った。


「あの、中村さん。」


まだ何かあるのか、と振り返ると相手はこう続けた。


「野球部のこと、よろしくね。ウチの弟も生意気でムカつくだろうけど…」

「あのね、言われるまでもないわよ。あたしも聖秀野球部の一員なんですから。」

「…そっか、そうだよな。」

そう言って、なぜはまた清水薫は笑った。
何だかとても嬉しそうに。







ホントに調子狂う女。


野球と違って恋にルールなんてないんだから、そんな風に安心してたら本当に知らないわよ。


あんたは、あたしのライバルなんだからね。




薫と中村美保ちゃんのからみがもっと見たかったです。

どうでもいいけど、聖秀VS三船戦は薫にとってめちゃめちゃ見たかった試合だろうに、なんで遅刻したんだろう…


清水薫で6題「ルールは無用!」【配布元・NO GAME】


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