■大空


「こんにちは、清水さん。」


聞き覚えのある女性の声に、薫はくるりとその方向を振り返った。


「あっ、本田の…吾郎君のお母さん!どうしたんですか?」
「吾郎の代わりに卒業証書を受け取りに来たのよ。ホラ、あの子はもう向こうに行っちゃって、出席できないから。」
「ああ。そうでしたね…」


二人の間にしんみりとした空気が漂ったが、桃子がそれを振り払うように明るい声で話題を変えた。


「清水さんは、卒業したらどうするの?」
「この春から大学に行きます。」
「女子大生かあ。なんだか時がたつのってホント早いわねぇ。吾郎とリトルリーグで一緒だった頃が、ついこの間だったような気がするのに。」
「アハハ。アイツ…吾郎君は、どうしてるんですか?」
「今度チームの抑え投手として試合に出るんですって。親としては、一生に一度の卒業式くらい帰って来れるなら、とも思ったんだけど…そうもいかないみたいね。」
「そっかぁ…頑張ってるんですね、あいつ…」
「ええ。でも、あっちでいきなり置き引きにあって大変だったみたいよ。」
「えええっ!?」
「あんなに言ったのに、この前やーっと連絡してきたのよ。まあ、親切な人に会って大丈夫だったみたいだけど。」

そんな風に桃子が語ってくれる向こうでの吾郎の様子を薫は興味深く、とても楽しそうに耳を傾け聞いていた。


「あ、ごめんなさいね。何だか長く呼び止めちゃって。」
「いえ、そんなこと!こちらこそすみません。」
「それじゃあ、大学でも元気でね。」
「はい。じゃあ、失礼します。」


そう挨拶をして薫が止めた足を再び踏みだそうとした瞬間。


「あ、待って清水さん!」


再度桃子が思い出したように呼び止めた。首を傾げながら薫は向き直る。


「吾郎がね、電話で『あいつによろしく伝えててくれ』って言ってたわ。」
「え?」
「高校卒業、おめでとう。」


優しい笑顔で伝えられた言葉に顔をほころばせ、すぐさまぺこりと頭をさげた。











「はい!ありがとうございます!」




そして顔を上げ、あまりにも遠い地でひとり戦っている彼へと薫は想いをはせるのだった。

離れていても、晴れ晴れとしたこの大きな大きな青空のどこかで、きっと必ずつながっているということを信じながら。





アニメオリジナル回で聖秀の卒業式を見て、脳内補完。

清水薫で6題「大空」【配布元・NO GAME】
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